odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

各務三郎編「世界ショートショート傑作選 1・2」(講談社文庫) 1950~60年代に書かれた雑誌の見開き2ページに収まる1000字程度の物語の傑作選。

 石川喬司「夢探偵」講談社文庫という文庫があって、ミステリとSFの傑作が紹介されていた。それに載っている小説はもちろん入手可能なものがたくさんあるのだが(「ソラリスの陽のもとに」とか「Yの悲劇」とか、そういう有名作)、ショートショートに関しては当時(入手は1983年)読むのは困難だった。それこそ早川書房のSF全集で、短編集を買わないといけなかったと思う。
 と思っていたら、紹介されていたほとんどは、この「世界ショートショート傑作選」2巻で読むことができるのであった。これはしたり、なるほど、石川の本で興味を覚えさせ、この2冊を購入させようという戦略であったのか。これは読みすぎであるにしても、「女か虎か」「1ドル98セント」なんかのそれぞれ一編の短編でしか記録に残らない作家の短編を読めるというのは貴重なことだ。

 ショートショートという形式は、つまるところ雑誌の見開き2ページに収まる1000字程度の物語であって、せいぜいのところ5分で読めるというのが読者にとってのミソになる物語なのだ。書く側からすると、アイデア勝負であるとかスマートな落ちとか人生の一断面を見せるとか、制約の多いもので、ぎゃくにそれが魅力となる形式であるらしいのだが(ブラウンとか都筑道夫なんかを読んでそう思う)、読む側からすると、あっという間に読めて、うーんとうなり、読後すぐに忘れることができるというものでいいのだ。なーんてね。
 この本に収められているのは、1950-60年代に書かれたものであるのだが、さすがに時代の古さを感じることになる。とくにホラー・怪談になると同じ落ちをいろいろ読んでいるからね。時代に密着していることと、ナイーブな物語作りのおかげで、鮮度が落ちてしまうのだ。これはフレドリック・ブラウンやヘンリー・スレッサーなんかにも共通すること。これがさらに時間を経たら、ラヴァル「夜鳥」みたいなアナクロな魅力を持つことになるのかもしれない。それに、現代の読者だと、いろいろなストーリーやアイデアをいろいろ見ているから、さらにもう一回ひねってくれないといけない。読者は王様よりも贅沢なのだ。


<追記 2015/12/26>
「一ドル九十八セント」 アーサー・ポージス
 罠にかかったの鼠を助けると、1ドル98セント内の願いを聞いてくれる神様だった。どうやったら好きな女の子に振り向いてもらえるだろうと神様に願う。翌朝、、「偉大なる神イーブの(一ドル九十八セント以内での)感謝として、これを贈る」というメモが書かれた新聞の切り抜きが落ちていた。さて、この金額で神様は何をしたのでしょう。ハートウォーミングな好短編。