odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

スティーブン・キング「呪われた町 上」(集英社文庫)

 およそ20年ぶりに読んで、既視感を覚えたのは、「ほかの長編のモチーフをひとつにまとめた、なんて贅沢な小説なのだろう」ということ。もちろん順番は逆。これは1975年に出版された第2作(売れない時代に書いた別の長編があるのだけど。「バトルランナー」とか。ここでは正式出版順で話を進める)。なので、このあとの長編は、ここのモチーフの一部を拡大していったものだ、とういうことになるわけだ。いくつか。

 主人公のベン・ミアーズは駆け出しの小説家で、ふたつのオブセッションのもちぬし。ひとつは、セーラムズ・ロットの丘にそびえるマーステン館での恐怖の出来事(1930年代にあった当主が首つり自殺したのを1950年代に幻視している)であり、もうひとつは最初の妻を交通事故で死なせていること。このふたつコンプレックスが彼を陰影がある悩めるインテリにしている。そう、これは「IT」の主人公の経歴と一緒。あるいは「デッド・ゾーン」の主人公でもあるかしら。
 彼のガールフレンドになるスーザン・ノートンはとうのたった娘(28歳だったと思う)。イラストレーターの芽がでそうになっても、土地と母のしがらみが強くて、自立できない。そう、これは「クージョ」の主人公たち。あるいは前作「キャリー」の母娘の関係を繰り返しているのかな。
 12歳の少年マーク・ペトリーは早熟で好奇心が強いが、虚弱な体格の持ち主。B級映画のオカルト・ホラーが大好きで、フィギュアのコレクター。友人も少ない。こういう人物はキングの小説にはたくさんいて、たとえば「スタンド・バイ・ミー」の子供かな。ガキ大将にからまれ、したくない喧嘩をしなくてはならないというのも、「IT」の子供時代の部分にあった(ような気がする)。
 あるいは、この異能の少年(ここではオカルトの知識が豊富ということだけなのだが)が周囲の共感を得られず孤立していて、わずかな理解ある大人といっしょに逃亡生活をするというのは「ファイア・スターター」なのだろうな。
 あれ、これくらいかなあ?ベン・アミーズのオブセッションは「ミザリー」の作家に反復されているだろうし、信仰に懐疑をもったためにダークサイドに落ちるキャラハン神父もどこかで反復されているような気がするし。あるいは乳児の育児ネグレクトをする若い夫婦というのもどこかで読んだ記憶があるのだが(もう俺の記憶はアルジャーノンなみになっているみたいだ)、手元に何も残っていないので確認しようがない。
 というのも、キングの小説はいくつも持っていたのだが、読み直そうとしては挫折しているから。初読のときに、エキスを吸い取りきってしまって、再読のときには抜け殻しか感じないというわけだ。「新作」しか興味がなくて、「新作を」「新作を」と叫びながら書店を経巡るのだ。この小説にでてくる吸血鬼(およびそれに血を吸われて変身した亡者アンデッド)そっくり。キングのようなミリオンセラー作家にとっては、読者は吸血鬼や亡者アンデッドであるのだろうな。あれ、これなんて「ミザリー」?