odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

レイ・ブラッドベリ「何かが道をやってくる」(創元推理文庫)

 ジムとウィルは隣同士の仲良し。ジムは10月31日午後12時の1分前に生まれ、ウィルは1分後に生まれるという奇運のために兄弟のようなのだ。現在は14歳になる直前。微妙な年齢だな、本人は大人の仲間入りのつもりで、はた目には子供とかわらず、無鉄砲で、臆病で、孤独に直面しておびえていて、しきりに仲間を求めるような。まあ、自分を思い出しても、この小説のこの二人の行動をみても、なんてバカなのだろうとみてしまう。

 さて、そういう重要な年齢の秋。避雷針のセールスマンがやってきた。そしてジムとウィルの家に大人がいないのを知ると、無償で避雷針を取り付けるように勧める。そこには古代の文字やアイコンが彫られていた。それを設置するのだが、夜の嵐で壊れてしまう。その翌日、町にサーカスがやってきた。ジムとウィルはさっそく深夜にサーカスに忍び込む。そしてサーカスの団長が回転木馬に乗り、逆に回転するのを目撃。回転するごとに中年の団長は若くなり、12歳の子供に戻ってしまう。団長の目に邪悪なものが潜んでいるのを見つけて、彼らは震えあがる。
 子供に戻った団長は彼らの先生の家に甥という名目で寄宿していた。その翌日、先生(ミス・フォレー)は町から失踪する。しかし、ジムとウィルは甥が言葉巧みに先生を誘い込み、回転木馬に乗せたのだと知る。そして10歳の少女にされ、行くところをなくし、サーカスの団員になってしまったのだ。そうしてみると、サーカスの矮人は避雷針のセールスマンそっくりだった(二人の少年はサーカスにつかまったというけど、彼の行動はサーカスの先遣隊だよな。避雷針を受け取り、家に掲げたから少年たちはサーカスに追われるようになったのだ)。団長が回転木馬に乗って年を戻しているのを見つけた少年たちは配電盤に飛びつくが操作がわからない。その結果、回転木馬は暴走し、150歳の老人になってしまった。それを発見したもうひとりの団長ダークが少年たちに復讐を誓う。街に危機が迫る!しかし、そのことに気付いた大人はいない。少年たちの証言は大人たちに取り上げられない。さて、どうする。
 ここまでの流れは、吸血鬼のでてくる怪奇小説。前半の少年たちの脈絡のない行動はどうにも冗長。でも、彼らの言を聞く雄一の大人が現れてからは一気に物語が加速する。この大人はウィルの父チャールズで図書館員。39歳の晩婚で現在54歳の初老。人生に倦み、生きる価値を見いだしていない無気力な男。それが図書館で千万の怪奇物語と古い新聞を読み漁り、サーカスが太古から人間の生きる力を奪い取り、<無>を人々に蔓延させることで生き延びる太古の怪物であることを知ったところから、彼は変わる。
 少年と父のもとには魔女が、刺青男が送られ、彼らを拉致しようとする。ついにはジムがさらわれ、父の左手首が砕かれる。さあ最終決戦は、サーカスの奇術ショーだ。ダークが声を張り上げ、大人たちの沈黙する中、手首を負傷した父チャールズが観客席から舞台に上がるシーンは素晴らしく格好いい。そして、孤立無援の中、彼らには何が残されているのか・・・
 おお、このように(男の)子供は大人になるのか、そして大人は自尊心を取り戻すのか。解体しかけた家族が「絆」(この言葉は嫌いなのでかっこ付き)を取り戻し、子は父を尊敬し、父は子が成長したことを認める。いささかマッチョでパターナリズムの匂いがするのだけれど、まあよい。危機を通じての自己回復の物語は美しい。なによりも太古の怪物に対抗するたったひとつの冴えた武器の扱いが素晴らしい。
 「たんぽぽのお酒」のダーク・ファンタジー版。これは少年の時に読み、老年になって読み直すとよい。1962年初出。