odd_hatchの読書ノート

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尾之上浩司編「ホラー・ガイドブック」(角川文庫)

 2002年の初出だけど、手にしたのは2013年。懐古的な気分になるのは、ミステリーやSFではこの種のガイドブックはそれこそ江戸川乱歩筒井康隆のそれに始まって、すでに古い歴史を持っているけど、こと怪談・怪奇小説・ホラーではその種のおおがかりなものは皆無だったなあ。それがいまや独立したガイドブックになって、採算ベースにあうようになるなんて。ああ、ここまで来たのだなあ、成熟したジャンルになったのだなあ。
 まあ、いままでまるでなかったわけではなく、先駆的なのは乱歩「怪談入門」、荒俣宏別世界通信」「理科系の文学誌」かな。小さい特集では、角川文庫の「読書の快楽」「活字中毒養成ギブス」「続・読書の快楽」がそれぞれ50冊くらいをあげていた。これらの1980年代のブックガイドに挙げられたものと、21世紀頭のこの本で挙げられたものはほとんど同じ。傑作、佳作というのはちゃんとみきわめられるということなのだね。あと、ここでは、小説だけでなく、映画とTVドラマも含めているのがありがたい。
 興味深いのは、「ホラー」というジャンルがミステリーやSFよりもあいまいな領域にあるということ。「トリフィド時代」「人間以上」「結晶世界」というのはSFの代表作であったし、「ジェニーの肖像」「10月はたそがれの国」などはファンタジーで、「サイコ」は怪奇小説よりもミステリとして読まれてきたよなあ(あえて作家名はあげない、みんな傑作なので調べて読んでほしい)、などと思うのだけど、みんな「ホラー」とされる。なるほど、スティーヴン・キング以降の「モダン・ホラー」になると、ジャンルミックスの傾向はより強くなっていて、その種の本を読んで楽しみ、系譜を探るとなると、こういう境界領域にあったものも「ホラー」にするのだなあ。恐怖やスリルやサスペンスは定義しがたいし、ホラーに特有な形式があるわけでもないので、定義はできない。そのことに目くじらを立てることはしまい。むしろ、この種のガイドブックで読者が増えるのは大歓迎で、楽しい時間を過ごしてほしいと思う。
 で、俺のようなすれっからしになると、この種のガイドブックを読む楽しみはもうひとつあって、いちゃもんをつけること。ふふふ、やらせてもらうぜ。
・19世紀の怪奇小説で「フランケンシュタイン」「ジキル博士とハイド氏」「吸血鬼ドラキュラ」をあげているのはまったくそのとおりだけど、ポオとディケンスとホフマンにあいさつがあってもよいよねえ。
E.T.A.ホフマン「ホフマン物語」(新潮文庫) - odd_hatchの読書ノート
E.T.A.ホフマン「黄金の壺」(岩波文庫) - odd_hatchの読書ノート
・戦前の古い映画の推薦で「魔人ドラキュラ」をあげているけど、映画としては「フランケンシュタイン」のほうができがよい。「オペラ座の怪人」も地下水道の追跡劇は楽しいよ。「メトロポリス」をホラーにするのは無理があるなあ。
・イギリス幻想小説がごっそり抜けているのはどうかしら。なるほど、マッケン「夢の丘」、ジョージ・マクドナルド「リリス」、J・C・ボーイス「モーウィン」と読むのが辛い小説もあるが、マーヴィン・ピークゴーメンガースト」、E・R・ディクソン「ウロボロス」、デイビッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」の大傑作をぬかすのは納得いかないよ。ロード・ダンセイニのファンタジーも面白い。戦後のだと、イアン・バンクス「蜂工場」が漏れている。
・本邦作とアメリカの作品が主で、入手のしやすさからするとそうだけど、中国の古典を紹介しているのなら、あわせてフランス、ドイツ、東欧、ロシア、中南米の怪談・ホラーも紹介してよ。白水社河出文庫がアンソロジーをだしているのだし。
ロバート・マキャモンは「スティンガー」「狼の時」「少年時代」か。俺だと、「ミステリー・ウォーク」「アッシャー家の弔鐘」「スワン・ソング」だな。文学志向なのがみえみえの選択になった。
 こんな浩瀚なガイドブックを作る知識と技術を持たないのに、限定された分野では知識を披露することができ、それでもって自分の優越性を公表するためにいちゃもんをだしてしまう。そこに過剰な自尊心と劣等感を見出すことは可能なので、その事例をみつけたら大いに笑いましょう。て、俺のことかよ!! orz

 編集者によると、出版までに大変な事情があった様子でした。お疲れ様です。
2013-01-21 - 翻訳ミステリー大賞シンジケート