odd_hatchの読書ノート

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荒俣宏「別世界通信」(ちくま文庫)

 1977年に初出で、ちくま文庫に収録。まず、サマリーまで紹介されている幻想小説を順にリストアップ。

イギリス幻想文学をほぼ網羅。
マンディアルグ「ロドギュヌ」
トールキン指輪物語
E・R・エディスン「ウロボロス
ラッセル=ホウバン「ボアズ=ヤキンのライオン」
アルジャーノン・ブラックウッド「ケンタウロス
ロード・ダンセイニ「時と神々」
オラフ・ステープルドン「最後と最初の人間」「スター・メーカー」「闇と光」
ジェイムズ・ブランチ・キャベル「マニュエル年代記
ジョージ・マクドナルド「リリス
ウィリアム・モリス「この世の果ての森」
メアリー・シェリー「フランケンシュタイン
デイビッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」
マーヴィン・ピークゴーメンガースト
ル・グインゲド戦記
 このリストを見ると、自分が1980-90年代に読んだファンタジーはだいたいこの中にはいるのだなあ(もちろん「この中で読んだことがあるのはいくらもねえや@日本の夜と霧」なのであるが)。自分は「別世界通信」を2013年に初読なので、この本に影響されたわけではない。自分の先見性があったからではなく、当時サンリオSF文庫ちくま文庫創元推理文庫やハヤカワ文庫が紹介したのがこの本のリストに載っているものだったから。どれか読んだあとがきは荒俣宏が解説を書いたものが多いから、次に手にする本は上記のリストに重なっていく。
 これらの希書、奇書にくわえてシェイクスピアからウォルポールから、ウェルズ、カイヨワ、構造主義哲学者まで、1ページにつき数冊の本が紹介されるという密度の濃さ。とてもではないが自分には消化しきれない。圧縮のすさまじさは、「黒死館殺人事件」を思いだした。誰か、この本の詳細な注解を作ってくれないか。本文の2倍の厚さになってもいいぞ。幻想文学とイギリス文学の知識だけでは足りず、西洋哲学と科学の歴史、神秘思想などなどを網羅していないといけない。
 これが30歳の手になるというのだから。まったくなんとも驚き。とはいえ、この圧縮された文章は読者を相当に限定してしまう。ファンタジーをこの国に根付かせようという決意と熱意は、ほとばしる文章に溢れんばかりなのだが、これでは幻想文学がなにか高度に知的で晦渋な文学に思われてしまうではないか。そういう過剰に圧縮された文章は、この年齢のものであって(あと「99万年の叡智」平河出版社も)、これでは読者を狭めるに違いないと、だれか助言したものがいたかどうか。1980年以降になると、文章はより平易に、簡明になり、知はエンターテイメントになった。その結実が「帝都物語」であるとすると、ここの文体を克服することは多くの成功を著者にもたらしたのである。あいにく幻想文学・ファンタジーは新作でこそよい売れ行きを示したが、上記の古典まで手を広げる読者はごく少数にとどまった。いくつかをのぞいてほとんどが入手難。
 いけね、著者のよいしょもいいけど、ここに挙げられたファンタジーは読んでほしいな。自分は「タイタス・アローン」とオラフ・ステープルドンに目をかけている。