odd_hatchの読書ノート

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ピーター・バーンスタイン「リスク 下」(日経ビジネス文庫)

2013/05/16 ピーター・バーンスタイン「リスク 上」(日経ビジネス文庫)

第10章 サヤエンドウと危険 ・・・ ようやく株の話。株価は変動が激しいが、長期的にみれば「平均への回帰」がみられる。問題は、「平均」が長期的に変動していくこと。ほかにもいくつか株価変動の理論が語られるが、説得力のある説明はない(あれば、株価は予測できるようになるよな)。
第11章 至福の構造 ・・・ ベンサムの効用理論について。
第12章 無知にういての尺度 ・・・ そろそろ自分の理解が危うくなってくるなあ。ケネス・アローリスク管理の考えをまとめた。主要な論点は、未来は不確実である(未来を決定する要因の情報を人間がすべて入手することはできないし、初期値のわずかな違いが大きな差異で現れる非線形の現象がこの世界には多いから)。なので、人はオッズと効用を組み合わせて未来に「賭け」をする。そのときリスクを多く取る人もいるし、リスクを回避しようとする人もいる。なお、リスクを引き受ける行動を取る人がいることが社会や歴史を変化する力のひとつになってきた。いちおう言っておくと、リスクと効用はゼロサムでも、トレードオフでもないよ、ゼロリスクでなければならないことはまずこの世にはない。
第13章 根本的に異なる概念 ・・・ 20世紀の経済学は、確率よりも不確実性のほうに重きをおくようになった。すなわち古典経済学の均衡や平均への回帰は現実を反映していないし、マルクスのような経済学はイデオロギーで未来を予測可能であるとしているので誤り。で、重要な人はナイトとケインズケインズの紹介はおおざっぱすぎると思う。これが書かれた時期(1990年代)は新自由主義とレッセ・フェールへの信頼が高かったので、それを反映してかケインズ大きな政府に批判的な書き方。
第14章 カロリー以外はすべて計測した男 ・・・ ゲーム理論について。この理論の重要なところは、確率計算とか疫学調査とは関係なしに人間の活動を予測したり、最前の行動を合理化することができることと、意思決定が個人の意思にあるのではなく、他人の意思とか活動に反映されて変化していくことあたり。主体とか自我とかいうものを想定しなくても行動予測できるというところ。一方で、合理的経済人を仮定した経済学が1970年代に生まれ、1980年代のレーガン政権で採用されたことにも注意。章題はゲーム理論創始者フォン・ノイマンハンガリーの生まれでのちに亡命。ベラ・バラージュやポラニー兄弟などと同郷になる)に奥さんが彼を語った言葉。
第15章 とある株式仲買人の不思議なケース ・・・ マ−コヴィツのポートフォリオ理論。どこか一つに貼っていると、失敗したときにはすっからかんになるが、複数の銘柄にわけて貼っておけば差引を総計すると利益がでるようになるということ。まあ、配当(期待収益率)を織り込まないと、そう流しで車券をかってもマイナスになるので、計算は難しい。でも、ときには長期保有のほうが利益の出る場合もあって(ウォーレン・バフェットの場合)難しい。あと元手をどれくらいもっているかで、リスクの取り方が変わる。元手の少ない人ほど低リスクを選ぶ傾向があるとこのこと。
第16章 不変性の失敗 ・・・ 人間は合理的な行動・判断を取るという暗黙の了解があったが、種々の実験をするとどうもそうではないらしいということがわかった。たとえば、損失が見込まれる判断のときにはリスク回避(ギャンブルしない)に向かい、情報があいまいなオプションとある程度そろっているオプションでは後者を取る傾向がある。それに、オプションの説明の仕方でも判断は変わる(プロジェクトAは600人中200人を救うという説明と、プロジェクトAは600人中400人の死者がでるという説明では、内容はいっしょでも前者を支持する率は後者よりも高くなるという具合)。
第17章 理論自警団 ・・・ 株式市場における投資家の非合理的な選択や行動を説明する理論について。当時(1995年)にはなかった人の選択や行動傾向に影響を受けないコンピュータ取引について。
第18章 別の賭けの素晴らしい仕組み ・・・ 1970年代のデリバティブ商品について。ほかにも数学者と経済学者と統計学者と・・・などが組んでさまざまな金融商品を開発した。そのポイントはリスクをどこかに押し付け、価格の上昇下落にかかわらず関係者には利益がでるようにするというもの。この商品を投資資産に組み入れたところには、ときに本業で利益を出していてもここで損失を出すことがあった(たいていは利子の支払い)。
第19章 野生の待ち伏せ ・・・ リスク研究の歴史は2000年にもおよぶがいまだにリスクを回避する方法を入手できていない。自然の複雑さ、データの入手困難、行動の介入が事象を変化させること、古いリスクを解消したら新しいリスクが生まれるから、などなど。


 ここでのリスクは主に株式市場と金融商品、ときにギャンブルで起こることについて。ここらの知識が乏しいので、14章からあとは理解困難だった。専門家でさえ失敗するとなると、そううかつに手を出すのは素人はどうなのかなあ、できれば一日に4時間は市場と企業業績を調査することに時間をかけないとなかなか利益をだすのは難しそう。というようなリスク回避の行動をとるのはたぶん自分の資産が少ないせいだろう(16章参照)。
 素人にとって株式市場や金融商品は敷居がたかいようだが、環境破壊や放射線汚染とか、ガン罹患、交通事故というような日常生活でリスクを感じることは多く、こちらの議論を聞きたいけれど、この本はそれに応えない。まあ、過去の研究史を知っておくのはよいことだろう(たぶん)。すごく一般的な話をすれば、自然は複雑だからリスクの表れも複雑で、ゼロか一かという現れをすることはないということ、リスクを判断するにはその対象について勉強するのが最短の道であるということ、かな。