odd_hatchの読書ノート

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ピーター・バーンスタイン「リスク 上」(日経ビジネス文庫)

 「リスク」という言葉はどうもえたいが知れないし、どうも誤解された使われ方をしているのではないか(自分の責任とは無関係に降りかかってくる災難みたいな意味)。なので、このタイトルの本を読む。
 前半は、リスクの考え方や計算に使われる確率や統計、推計に関する学問史。ギャンブルに取り付かれる(サイコロ遊びにルーレットから事業投資や株式購入にいたる)と、未来がどのように変わるか、それがどれくらいの影響を自分にあたえるか(利益になるとするとどのくらいに、損失の場合は破産にいたるのかなど)を考えることになる。もともとは経験則や格言であったのが、次第に論理的・科学的になっていったということ。

第1章 ギリシャの風とサイコロの役割 ・・・ ギリシャ時代の賭けやギャンブルの考え。まったくの経験則。
第2章 I、II、IIIと同じくらい簡単 ・・・ 14世紀ルネサンス期にアラビア数字が西洋に伝わった影響。この数字の体系と印刷技術による知識の普及。
第3章 ルネッサンスの賭博師 ・・・ 16世紀イタリア。ガリレオカルダーノによる確率法則(の一歩手前)。確率は(1)過去に起きたことの解釈や説明、(2)将来の見通しの二つの意味をもつ。
第4章 フレンチ・コネクション ・・・ 17世紀フランス。パスカルフェルマーの確率計算およびパスカルの三角形。このあたりからリスクには事象が起こる確率と事象がおきたときの影響の両方が影響しているという考え方になる。
第5章 驚くべき人物の驚くべき考え ・・・ 17世紀イギリス。グラントによる人口統計とサンプリング。ハレーによる平均余命の計算。それらを使った保険業の隆盛。そこにはコーヒーハウスの存在が重要(漱石「文芸評論」のように文筆家だけが厚真戯けではなく、船長などの運送担当者・企業の経営者・保険の企業家らが集まって情報収集と交換を行っていた。イギリスの有名な保険業ロイズもこの時代に誕生。
第6章 人間の本質についての考察 ・・・ 18世紀初頭のベルヌーイの論文(ベルヌーイの名を持つ学者はたくさんいるので注意)。それまでの確率計算のうえに、人間の心理にも着目。財とか富をたくさんもっているほど、効用(プラスであるにしろマイナスであるにしろ)は小さくなっていき、リスクを回避する。金持ちは宝くじを買わず、貧乏にはギャンブルに興じる。
第7章 事実上の確実性を求めて ・・・ ヤコブ・ベルヌーイによる大数の法則ベイズの定理の話。これまでの話では、事象の全貌がわかっている場合だった。この章では、事象の全貌がわからない状況にある。そのときに標準偏差で評価ができるようになり、わずかな証拠からイレギュラーが発生する確率を推定できるという話。この要約があっているか自信がない。17-8世紀の研究なのに、この種の勉強をしてこなかったので。新旧二つの工場があり、それぞれ生産数と不良品発生率が異なるとする。ここで一つの不良品が発見されたとき、どちらの工場で製造されたものかを確率で計算できる。なるほど工場の規模が大きく、工程が複雑なとき、やみくもに不良の原因を突き止めようとすると時間とコストがかかる。こうやって「あたり」をつけ証拠を手に入れて、さらに発生個所をしぼっていく。こうすると、全数検査、工程見直しをするより、時間とコストを節約できる。
第8章 非合理の超法則 ・・・ ガウスの話。ここでは正規分布について。自然界の事象を測定すると、ほぼ正規分布を示す。しかし、測定する事象がそれに関連する別の事象の影響を受けているとき(発生確率を変えるとき)正規分布にならない。例としては、片目に視覚障害があって、常に的をある方向にずらすとか、インチキサイコロを使うとか。
第9章 壊れた脳を持つ男 ・・・ ここでは測定に取り付かれたイギリスのケトレーとゴールトンの話。彼らはさまざまな測定(特に人体について)を行うことにより、「平均人間」という観念を考案したり、優秀な人種ないし系統があることを実証しようとした。それらの学問構築は失敗したが、二つの問題を残した。ひとつは相関関係と因果関係を混同すること。もうひとつは「優生学」を提案したこと。なおゴールトンは指紋の研究を1892年に上梓し、それがイギリス警察の採用するところとなり、犯罪捜査に指紋が使われる契機になった。 快楽亭ブラック「明治探偵冒険小説集2」(ちくま文庫)

 著者の本業はコンサルタントなので、時として文章が堅苦しく、意味の通じないところもでてくる。これがサイモン・シンであったらなあ、というのは贅沢かな。

2013/05/15 ピーター・バーンスタイン「リスク 下」(日経ビジネス文庫)