odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

藤原保信「自由主義の再検討」(岩波新書) 1989年の東欧革命で深刻な衝撃を得たが、それでもなおかつ社会主義思想を擁立したい。

 1994年に急逝した著者のおそらく最後の本(1993年刊)。
 1989年の東欧革命で深刻な衝撃を得て、それでもなおかつ社会主義思想を擁立しとうしている試み。1935年生まれの著者は、おそらく1960年安保闘争を前線で戦い、1970年安保を窓の横に見ながら政治思想史を研究していた学徒だろう。だから政治思想としての社会主義、市民平等化を進める社会運動を基礎付ける思想としてのマルクス主義を擁護したい気持ちがたくさんある。そういう意欲があっても、新書という本の性格のためか200ページの80%は過去の政治思想家の紹介にとどまっている。そこにはロックやスミスのような経済学の泰斗も現れるが、特別な読み方を迫るものではなく、常識的な範疇の紹介にとどまっている。
 中心は、自由主義を擁護する過去の思想の評価ということになる。登場するのが、ロック、ベンサムホッブスの18世紀の人々と、マルクスとその後の社会主義国家、そして1980年以降の自由と正義をめぐる社会学の研究−思想家というのでは議論が充分とはいえない。とくに経済に関する議論が少なく、また理解が充分であるようではないので、説得的とはいえない。
 著者は個人主義に立脚する自由主義には限界(というよりも未来の破滅)があるので、共同主義(とでもいうのかな、コミュニケーションに立脚した共同体社会の存立を目指す)を指向している。そのあたりの議論は薄いので当否を下すまでにはいかない。また著者は政治は経済より上位にあるべきと考えているようで、現在のように政治が経済に振り回されていることを望んでいないようだ。もちろんこれだけ大きな問題に対し、著者に現状を変革する代替案あるいは改革案を提出することを望むのは酷なことではあるのだが、単純なユートピア風なプログラムを提示するだけでは不十分だろう。それこそ、かつての共産党のようなアジテーションに堕する可能性もある。
 にもかかわらず、あえて(と思う)「私の夢」を描かずにはいられなかった、オールド・コミュニスト(かそのシンパ)の苦渋を読んだ。