odd_hatchの読書ノート

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神野直彦「地域再生の経済学」(中公新書)

 「人間回復の経済学」(岩波新書)とおなじく2002年の初出。

 ここでは地域自治体の自立を検討する。その前提になる社会、経済分析は、「人間回復の経済学」と同じなので繰り返さない。
 さて地方の問題とその解決提案は以下のようになる。
1.地方自治体の公共サービスの範囲が拡大。共同体の担ってきた非経済活動が共同体の解体によってできなくなり、それを継続できる組織は自治体になった。そのための財源がないことが問題。
 財政問題は下記を参考に。地域共同体に変わるアソシエーションの活動に投資をする。NPOとかさまざまな組合など。
2.財政のない理由は、地方自治体に課税権がないこと。この国では、自治体の役割、権限に様々な規制がある。また明治維新から15年戦争の敗戦まで地方自治体の首長は中央が派遣し、中央の政策を推進するようにされてきた。それらがあって、地自法自治体が徴収できる財源では1の公共サービスを実施するのに不足している。それは国からの交付金補助金で補っているが、運用の権限がなく使い道の規制があるので、自治体ごとのニーズに対応できていない。
 解決策は、自治体に課税権をもたせ、直接徴収できる税金を持つようにすることが望ましい。実施の成功例はフランスにある。このとき、自治体の財源格差が生まれるが、そのとき中央からの補助を出すか、自治体連合で補助しあうかの2通りがある。できれば後者が望ましい。ほかにも、課税の仕方によっては高額所得者が別に移転し、補助を必要とする貧困層流入するという移動の問題がある。そこは慎重に、柔軟に対応する必要がある。これも外国に運用の実施例があるので参考に。
3.地方の産業がなく、職が不足する。敗戦後から1990年までは工場誘致で地方自治体の税金と就業先を確保してきたが、グローバル化やこの国の賃金上昇などによって工場が海外移転してしまった。そのために地方には公共事業しか産業がない状態になっている。
 解決策は、知識産業への転換。そのためには人的投資を推進することが必要。教育、医療、福祉サービスなどを充実し、義務教育、成人教育に投資する。成功例はスウェーデン
 ざっくりとはこんな感じ。なるほど地域振興、復興、地場産業の復活となると、第一次産業かそれに関連するサービス業くらいがいままでのやり方だった。そのような特産品を持たない地域、地方ではこのような進み方もありだな。まだまだこの本の事例では具体的な施策にまで落とし込んでいないので、もっと事例研究が必要になりそう。
 あとかけているところは、企業の協力。上記の施策を行うには、企業は労働時間の短縮(午後6時半には自宅に帰り、残りの時間にNPOや組合活動ができる)、労働場所を分散(本社機能や営業所を分散して、社員の通勤時間を30分以内にする)などが必要。地方自治体の変革の前に、企業が変わる必要がありそうだなあ。
 このごろ(2013年)は、グローバル人材の育成云々が言われているが、経済のほとんど国内の、それも地域でおこなわれるものなんだよな。「グローバルで活躍できる人材」よりも、地域再生のアイデアを立案し、実行する人材のほうがより切実に求められているのではないか。地方の商売がチェーン店やフランチャイズ店ばかりになり、食品や観光の開発に熱中するというのでは先細りになると思う。