odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

レックス・スタウト「ネロ・ウルフ対FBI」(光文社文庫) 1965年に1930年代のスタイルを崩さないウルフとアーチーはどうも社会との間に大きな溝ができたみたい。

 比較的近作(といっても1965年産)。タイトルはThe Doorbell Rang。昼間にドアベルがなるのは好ましいけど、この場合は深夜や明け方だ。そんな時間にたずねてくる友人はいないとなると、来たのはいったい・・・。これが共産主義政権下の東欧およびソ連であると秘密警察であるが、アメリカの場合はFBIであるらしい。あまりこの組織には詳しくないのだが、ケネディ暗殺とかキューバ危機とか、それに若者が社会と大人に不満を口にし、あまつさえ行動に移すようになってきた。なので、FBIとしては国内治安を守らねばならず、警察とは別組織なので、相当に荒っぽいことをやることもあったそうな。PKDがサンフランシスコのアパートに済んでいたら、不在の間にドアを壊され、金庫を爆破されるという事件に遭遇した。彼はFBIの仕業と確信している。電話の盗聴、市民の尾行、スパイによる密告などなどはありふれたことであったらしい。ジョン・エドガー・フーヴァー1924年からずっと長官をしているのも気に食わない。とういうわけで、すべからくFBIの活動は批判すべし(「すべからく」の用法は厳密な規則があるらしく、間違えると指摘が入るのだが、これはOKかな)、という本も出た。

 ある夫人がFBIの内幕を暴いた本1万冊を購入し、著名人に配布したら、FBIの監視を受けるようになったので、どうにかしてくれという依頼をする。資産家であるので報酬は10万ドル(えーと、当時のレートは1ドル=360円で、ラーメンが20-30円だったから、現在価値に換算すると・・・え〜〜!!)。年初で手元が心配なウルフはこの依頼を受けることにする。そのとたんにウルフおよびアーチーの身辺がきな臭くなるのであった。捜査を開始したころ、匿名の電話があって、アーチーは場末のホテルに呼び出される。なんと、商売敵のクレーマー警部。FBIからウルフの私立探偵ライセンスを取り消せという圧力がきていること、彼の手がけている事件(FBIの内幕を探るルポライターが射殺された)の容疑者がどうもFBIらしいこと、などウルフに情報を提供し、あまつさえ友情まで示したのである。そこで、ウルフの戦略はクレーマー警部の事件がFBIに関係ないことを示して、二人の鼻を明かそうというものだった。まあ、サマリーはここまでにしておこう。このあと、アーチーは資産家の依頼者に色目を使うし、ウルフは美食家でやはり富豪の友人に会いにいく。これがのちに、とてつもなくおおがかりなコンゲームにつながる。ここら辺のウルフの金の使い方は派手。
 事件そのものはシンプルで、トリックを使っているわけではなく、まあ意外といえば意外なところに犯人を隠しているくらい。むしろ、おおがかりなコンゲームと、ウルフやアーチーの食べる食事の豪華さを思い浮かべることに楽しみを見出すのかな。
 それにしても、1965年で、すぐそこにサマー・オブ・ラブが来ているというのに(文中で「ビートルズ」が現れる)、アーチーが外出するときには帽子をかぶり、ネクタイを締め、コートをはおる。酒はできるだけ外ではさけて、タバコは吸わない。アーチーは貧乏人や密入国者やカラードには会わずに済んでいる。どうも社会と彼らの間に大きな溝ができたみたい。
 訳者は佐倉潤吾さんではなく、高見浩さん。そのためアーチーは「私」で、ウルフも「わたし」としゃべる。

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