odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

都筑道夫「退職刑事4」(徳間文庫)

 初版の版元がもう一度徳間書店にもどり、通番が復活。創元推理文庫で復刻された時には、「5」が付けられた。ややこしいので注意すること。1990年初出。
 徳間文庫の解説には長編がでるという予告があったが、これは実現しなかった。

「落葉の墓」(1987) ・・・ カムバックした演歌歌手が自宅で殺されていた。妻は失踪中(のちに山中で撲殺死体が見つかる)。売れないときはホストクラブで働き、カムバックの金をほうぼう(医者の夫人や霊感コンサルタントなど)から集めていた。警察の考えも合理的ですじが通っているのだが、証言のささいな一言が別の解釈を引き出す。
「凧たこあがれ」(1988) ・・・ 椿先生の部屋で新年会。退職刑事の昔話を聞いて、先生と現職刑事で謎を解こうという趣向。昭和15年、大塚で弁護士が首を絞められて殺されていた。妻がいたが、最近離婚。タイピストの女とねんごろになったが、こちらは失踪した亭主と縁が切れていない。事件を解く鍵になったのは、現場近くで子供が凧を盗まれたことと、被害者の財布が半れたところで植垣に押し込まれていたこと。
「プールの底」(1988) ・・・ 高級ホテルのプールに泳ぎに来た高校からの仲良し三人組。まあ、似たような仕事をしているとつの突き合わすこともあるらしい。プールで泳いでいるとき、ひとりがスキューバ・ナイフで殺され、翌日もうひとりがひき逃げにあった。若い女性の情報を入手するのはなかなかむずかしい。そういえば、この時代、若い連中はよく高級ホテルにいって、泳いだり、飯を食ったりしたものだ。
「五七五ばやり」(1987) ・・・ 不動産屋が失踪して7千万円も消えている。この事件の参考人が殺されていた。その直前に、男は手帳を中学時代の恩師、いまは俳句を教えている、に預けた。死の匂いのするうまくない俳句が10句ならんでいる。犯人を示唆していると推測できるが、いったいどこにてがかりが。現職刑事の妻が団地の句会に参加しているということで、父子の話に初参加。なかなか鋭いところを見せて、世間知では現職刑事よりも頭が良さそう。
「闇汁会」(1989) ・・・ 20数年前に詩人、作家、落語家、翻訳者などが集まって闇鍋会を開いた。その最中に、詩人が苦しみだして、青酸中毒で死んだ。作家の残したノートをもとに椿先生が小説にしたいというのを退職さんと現役さんがいろいろ考える。事件はおみやいりだったが、作家の観察のおかげで、つじつまのあうプロットになった。ラストシーンは楽屋落ちだが、いい味だな。なるほどこうやってセンセーは探偵小説を作っていたのかというのがわかるのもうれしい。昭和30年代の事件で、当時詩人がミステリの翻訳をするのが流行りと書いてある。ああ、鮎川信夫西脇順三郎田村隆一のことか。詩人じゃないけど福永武彦丸谷才一堀田善衛阿部知二福田恆存も。いやはや壮観。
「遅れた犯行」(1989) ・・・ 人を殺したと出頭した男がいる。あいにく殺した相手は、旅行中。しかも自分の妻との不倫旅行。殺した相手からは出資してもらったという。その1週間後に、本当に殺された。なんでまた、こんな面倒なことになったのか。出頭する理由が不可解で。
「あくまで白」(1989) ・・・ 32歳のひとり暮らしの女性が殺された。10ヶ月前に亭主と別れたばかり。女の姉が殺したのは元亭主だといい、警察もその線で捜査する。みょうにあきらめの良い臆病な男で、すぐにばれる嘘をついてばかりいる。現職さんはこの男は白とみるのだが、そう言い切れる物証や証言はない。行き詰って退職さんに相談する。途中、フラッシュバックで容疑者と現役さんの尋問が挟まれるのははじめてこと。
「Xの喜劇」(1989) ・・・ 腕のいい指物師で、毛筆が得意、仕事をやめてからは推理小説を読んでいる老人がいた。脳出血で倒れた時に、なにか伝えることはと聞くと、動く右手でXを書いた。そのまま言葉を取り戻すなくなくなったのだが、さて、きになってならない。そこで退職さんに相談することにした。タイトルもそうだけど、本文もユーモアたっぷりの気軽な小説。


 だんだんもとの設定(子供の現職さんが父の退職さんに相談する)というのが少なくなってきて、椿先生が相談に来たり、昔の事件を思い出したり。書き方も変わって、いっときに事件の全部を報告するのではなくて、時間をおいて追加の情報を喋ったり、ときにはフラッシュバックがはいって容疑者が会話をしたり。書き方の工夫が凝らされるようになってきた。それは泡姫シルビアのときといっしょで、一室にこもって二人で相談するというしかただと事件のバリエーションがなくなってくるし、書く方も飽きてくるからだろうな。
 あとは、謎の種類も変わっている。まあ、不可能状況とか全員にアリバイがあるとか、そういうハウダニット、フーダニットがだんだん少なくなってくる。後半のいくつかだと、容疑者はひとりでその一人が犯人というのが多いし。では、どこに力点が変わってきたかというと、なぜ容疑者は、犯人は、被害者はそのような行動をとったかという心理の問題。見えを貼るけど臆病であるとか、おしとやかぶっていながら黙って妾になっているとか、そういう見た目と内面の差異を謎にしているわけだ。まあ、突拍子もないことをしているようでも、なにか合理的な理由があるはずで、それはある程度そとから類推できるという確信が退職さんにはあるわけ。まあ。われわれは読書であろうと、実生活であろうと他人の心理は理解できるものという確信というか自信があるから、この種の謎には拍子抜けを感じるのかもしれないが。他人が何を考えているか、どういう感情をもっているのかわからない自分には十分面白い話であった。

退職刑事 (4) (徳間文庫)

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2013/07/19 都筑道夫「退職刑事」(徳間文庫)
2013/07/18 都筑道夫「退職刑事2」(徳間文庫)
2013/07/17 都筑道夫「退職刑事3」(徳間文庫)
2013/07/16 都筑道夫「退職刑事健在なり」(徳間文庫)]
2013/07/11 都筑道夫「退職刑事5」(徳間文庫)