odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

都筑道夫「退職刑事2」(徳間文庫)

 1976年初出のシリーズ第2作。その後、版元を変えては再販され、未だに入手が可能。退職した刑事が息子の現役警官を訪れ、進行中の事件の話を聞いて、推理すると言う趣向。

「遺書の意匠」(1975) ・・・ 翌日の歌舞伎の一等席のチケットを買った若い実業家が自殺した。遺書もある。不審なところはないが、実業家の弟が調べてくれという。妻は若く、毎夜遊び歩いていて、自身は不良な友人とギャンブルに高じるくらい。お手伝いさんも遅く帰ってきた妻も異常を感じない。顔を引き裂かれた写真と妻が事件発覚前に頭を売っていることから急転直下の怪傑。それぞれ別々の出来事がひとつの構図にぴたっと当てはまる快感。
「遅れてきた犯人」(1975) ・・・ 射撃に自信のある男が自首したいが報復があるので保護してくれと電話してきた。あるやくざの親分をゆすっていた業界ごろを殺ったのだそうだ。さっそく、ホテルに向かうと、男のいた部屋には全裸の大柄でボーイッシュな女の死体がある。それは男の同棲相手でもあった。たった4人の関係者。出来事を情報の入手順に並べると、このようになるのだが、恍惚の元刑事は男がホテルのレストランで現金決済をしていたところから解決に至る。これもまあ、それぞれ別々の出来事がひとつの構図にぴたっと当てはまる快感。
「銀の爪きり鋏」(1975) ・・・ 広島から東京に出た女子大生が今はホステスの売れっ子。つかんだパトロンを弟に紹介するということで訪ねてみたら、半裸で殺されていた。売れっ子だけあって、3人の客が熱を上げているし、大学の女友達には自分のもてぶりをしゃべって嫌われている。さて、何が起きたのでしょうか。そうそう、謎は殺された女は右利きなのに、右の手のつめを切っていて、そのつめが見つからなかったこと。
「四十分間の女」(1975) ・・・ 浜松駅前のスナックに、毎晩同じ電車で通い、終電車で帰る若い女がいた。窓際の席に座り、憂いに満ちた表情で外を眺めている。それが1週間続き、翌朝、駅構内の線路で貨車に接触して死んでいるのが見つかった。なぜ彼女は毎晩、夜遅くに訪れ40分間そこですごして帰っていったのか。自薦、他薦のアンソロジーによく収録される自信作。当時を思い返しても真相は浮世離れしていそうだが、連合赤軍の事件のひとつを思い出すと、どうにかリアリティは確保できそう。めずらしく事件の語り手にもう一人が加わる。
「浴槽の花嫁」(1975) ・・・ 新婚旅行の途中で東京によった夫婦。一日だけ互いに一人になろうということで、亭主は町に映画を見に、妻はホテルで旧友と親交を暖めた。亭主が帰ると、妻は浴槽で首を絞められて殺されている。妻は旧友五人を招待し、それぞれ記念品と証するゆすりの種を高額で買い取ってもらっていた。おかげで百万円の毛皮を現金で買っている。さて、妻が呼んだのは4人の男に一人の女(昔勤めていたキャバレーの女将)。さてだれがやったのでしょう。「浴槽の花嫁」でぴんときたのだが、ちゃんと来歴が書いてありました。おみそれいたしやした。
「真冬のビキニ」(1976) ・・・ 富山の厳冬、海岸で水着の女が後頭部を打たれて死んでいる。スナックに勤めていたが、4日前から行方不明。しばらく死体は身元不明だったが、彼女の許婚に、もうひとりキャバレーのなじみのホステスが警察に届け出て判明した。なぜ冬の海で水着だけでいたのか(服その他の遺留品は見つからない)。これも合理的な解決になり、なんとも陰惨な全貌が明らかになる。ここでももう一人の語り手(父とバーでなじみになった作家)が登場。
「扉のない密室」(1976) ・・・ 結婚式場。式の始まる前に悪友たちが新郎の部屋を訪れた。なごやかに迎え入れたが、足をもつらせて倒れると、背中にナイフが刺さっている。新郎のもとにはなじみのキャバレーのホステスが押しかけて、あたしと結婚しろ式を壊すのわめいているのをふだんはだらしない弟が懸命になだめていた。新婦は大手宣伝会社社長の娘で、自分の店を成功させているところ。これは、親と友人への見せつけになるはず。しかし、事件のために動転している。さて、何が起きたのでしょうか。恍惚の刑事は、部屋のいたるところがきれいに拭き取られて、指紋がみつからないところから推理する。


 探偵小説の形式を突き詰めると、このようなパズル、クイズになっていく。「退職刑事」の物語は、事件の不可能・不可解状態を提示→事件の関係者を説明→事件の前後の模様を説明→不可能・不可解状況の検討(ここでいったん暗礁に乗り上げる)→事件の再検討(重要手がかりを発見)→解決 という展開になる。これがそのまま章の小分けに対応している。この構造はたぶん他の作者でも同じではないかな。たとえば、ケメルマン「九マイルは遠すぎる」、アシモフ黒後家蜘蛛の会」などと照合してみるとよいかも。
 解説の海渡英祐も、この趣向(形式の純粋化)に感服している一方で、ときに調書を読むような味気なさに不満を漏らしている。まあ、気持ちは分かる。同じ感想を自分ももった。ここでは、登場人物を時に増やして3人の合議にすることをもあるけど、会話の文体がそれほど変わらないので(事件を明晰に説明できるインテリ風の人なので)、文章を読む面白さは少なくなるのだな。まあ、警官同士の会話だとなかなか薀蓄を語ることができないというのが、ボトルネックになったのだろう。凶器の珍しそうなナイフとか歌舞伎のチケットとかの小道具がでたら、他の作品だといろいろ脱線話をさせる人物がいるけど、恍惚の父は事件に関係ないからと遮るしねえ。上記アシモフ黒後家蜘蛛の会」だと事件と謎解きはあっけない(ときに駄洒落オチ)けど、マクラの薀蓄が面白いというのがあった。結末に脱力しても不満に思えないのはここらの差かな。ディレッタント風にいうと、ポオの「モルグ街の殺人」と「マリー・ロージェの謎」の違いみたいなもの。

  

2013/07/19 都筑道夫「退職刑事」(徳間文庫)
2013/07/17 都筑道夫「退職刑事3」(徳間文庫)
2013/07/16 都筑道夫「退職刑事健在なり」(徳間文庫)
2013/07/12 都筑道夫「退職刑事4」(徳間文庫)
2013/07/11 都筑道夫「退職刑事5」(徳間文庫)