odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

H・G・ウェルズ「モロー博士の島」(創元推理文庫)

 持っている本には、1995年ころ公開の映画「DNA」のカバーがついていた。1950年代の古い映画の存在は知っていたのだが
(間違っていた、映画化されたのは
*映画『獣人島』(1933年/アール・C・ケントン監督)
*映画『ドクター・モローの島』(1977年/ドン・テイラー監督)
*映画『D.N.A.』(1996年/ジョン・フランケンハイマー監督) の3回)
 航海中、嵐に遭遇し、救命艇で脱出。救助された船員にいくつかの紆余曲折があったあと、ミクロネシアの島をモデルにしたと思われる孤島に置き去りにされる。そこには、イギリスの科学界を追われたモロー博士が助手とともに、秘密の実験を行っていた。そこでみた恐怖の実験とは・・・。という物語。筋立てから思いつくのは、上記の映画化のようにハリウッドの特殊技術撮影を駆使した冒険活劇映画。最後をハッピーエンドに変えれば、原作の比較的単純な物語は、ハリウッドの一見豪華だが安直な映画にふさわしい。ああ、40−50年代のハリウッドの実績は食いつぶされてしまった。
 もうひとつは、ユートピア小説の筋立て。海洋冒険、異国訪問という前半のプロットはそのままユートピア物語のもので、地上に未開の地があった時代には、このような筋で「どこにもない場所」に行くことは説得力をもつものだった。例はハガードの「ソロモン王の洞窟」。もしくはサミュエル・バトラー「エレホン」(岩波文庫)。また船員が孤島を訪れ、そこに見出した恐怖の城という設定も、ゴシックロマンスを思わせるものだ。
 さらには、この物語は裏「ロビンソン・クルーソー」というべきなのだ。ロビンソンは孤島を資本主義社会化し、未開人を文明化することに務めるが、ここでの船員は人間の先祖帰り化、野蛮化に出会うことになる。ウェルズの持っていたペシミズムや当時の進化論の影響が濃厚に反映された結果であるがそのことはすでに解説に詳述されているのでここには記さない。ウェルズはSF小説の開祖であると言われている。実際にこの小説は「マッド・サイエンティスト」ものというSFのひとつのジャンルを開いたものだ。と同時に、上に見たようにウェルズは当時のジャンル・ミックスを試みている。「新しい」ことは実は古いものの意匠代えであったのだった。