odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ロバート・フィッシュ「シュロック・ホームズの回想」(ハヤカワ文庫) 常に間違える種ロックを温かく見守ろう。10分間浮世を世知辛さを忘れるためにはもってこいのおとぎ話。

 ホームズは事件の依頼人を一瞥しただけで、住んでいる土地から職業から秘密までを解き明かすのである。シュロックもその力を持っているのだが、常に間違ってしまう。依頼人もワトニイも(生)暖かくホームズの推理に感嘆するのであって、まことに優雅で美しい社会だ。

シュロック・ホームズの復活 (The Return of Schlock Homes) ・・・ 前作で死んだはずのシュロックが生きていた! ワトニイの驚きをよそに、失踪した豚の行方を追う。なにしろ賞をたくさん取った300ポンドもある由緒ある豚だ。事件を説いたお礼が、ジプシー(ママ)から届いた。
むこうみずな相場師 (The Adventure of the Big Plunger) ・・・ 相場師が株価評価票をみているうちにやおら窓を破って飛び降りた。居合わせた株式仲買人の犯罪と疑われたが、相場師のメモの奇妙な暗号にシュロックは目をつける。ああそう、事件の解決のあと株価が大暴落してしまった、とさ。
寡婦のタバコ (The Adventure of the Widow's Weeds) ・・・ タバコ屋の寡婦が新タバコを売ることにし、学生バイトを雇ったら、学生たちが暴れて仕方がない。これは幽霊が取りついたせいではないか、とホームズに泣きつく。新タバコの名称は「マリー=ファナ」だそうだ。
アルスター切手の謎 (The Adventure of the Perforated Ulster) ・・・ 英国エリートの集まるクラブで購入していない機器が次々と厨房に増えている。だれがこんなことを! 厨房の賄い方の残したカードには陰謀が隠されている。オチがしばらくわからなかった。
スリークォーターズ紛失事件 (The Adventure of the Missing Three-Quarters) ・・・ イギリスが貿易赤字に苦しんでいるので、世界的なデザイナーのコンテストを行うことになった。英国期待のデザイナーは型紙を作成したところで事故に合い、型紙が行方不明。シュロックの出番だ。彼は新しいファッションを作るのに成功した。
ホイッスラーの母蒸発事件 (The Adventure of the Disappearance of Whistler's Mother) ・・・ フランスからデュパンという探偵がきた。ルーブルから<母>が消えてしまったので探してくれという頼みだ。さっそくシュロックは御年95歳の老婆のプロファイリングに取り掛かる。
騎士館のホットドッグ (The Adventure of the Dog in the Knight) ・・・ 騎士館の侯爵が夕食中に毒殺された。容疑者はアメリカから来たジョン・ウェイン!? 彼の嫌疑を晴らすべくシュロックは奔走する。
ブライアリ・スクールの怪事件 (The Adventure of the Briary School) ・・・ フランスの学校生徒を引率する先生、生徒のメモをみてもわけがわからない。シュロックに訊ねると、大臣誘拐計画が進行中だという。メモにはLSDに、ヘロインなどがかいてあるのだがなあ。
二輪馬車の身の代金 (The Adventure of the Hansom Ransom) ・・・ ハスラーがきて二輪馬車が盗まれたので、探してほしいという。ベイグル・イレギュラーズに探させるとすぐに見つかったが、シュロックは背後のマーティ教授の恐るべき悪事を見出した。
大トレイン盗難事件 (The Adventure of the Dreat Train Robbery) ・・・ トレイン卿が朝7時に家で乱闘をしているという密告があった。クリスクロフトの依頼でさっそく調べると、トレイン卿はけがをしているわ、わけのわからぬ刺青をみつけるわ、稀代の女泥棒がいるわ、尾行者がいるわとおおさわぎ。あげくの果てには、仕掛け爆弾にまきこまれて。デュパンの送った「プラスチック」がいい味を出している。
ブラック・ピーター事件 (The Adventure of Black,Peter) ・・・ 金庫破りのブラックを職務質問したら、おかしな文章のメモをもっていた。困り果てたクリスクロフトはシュロックに解読を依頼する。


 ミステリは無限のバリエーションを持つ同じ物語なのだと考えているが、これだけ同じ話を繰り返されるとへこたれる。すなわち、イントロ→依頼者の訪問→シュロックの間違い推理→暗号提示→シュロックの冒険→見当違いの推理→新聞に載った別事件、がこの贋作ホームズのパターン。もう少しストーリーをひねってもらえないものかなあ。たぶん英国の読者は、ダジャレ、頭韻、押韻アナグラムその他の言語遊戯と、ホームズ譚のオリジナル探しで楽しめるのだろうけど。
 密室だ、閉ざされた山荘だ、赤毛連盟だ、などの雑多なミステリ短編があるところに、これが一編入っていると、いい具合のツマというか口直しになるのだろう。それだけを集めると、濃厚な珍味を大量に食べているよう。

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