odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

荒俣宏「黄金伝説」(集英社) 江戸の終わりから明治・大正のころに起業した独立独歩の人たち。成金ゆえに豪華な建築物や収集品に惜しみなく金を費やす。

 「異都発掘」「怪奇の国ニッポン」(集英社文庫)「東京妖怪地図」(祥伝社文庫)の方法を東京や京都のような大都市ではなく、地方都市で行うことはできないか。そのときに、地方都市のモニュメントは人と企業の活動の成果ないし道楽としてできたものが多い。そこに注目するとおのずと、地方で殖産興業に励んだその土地の偉人や起業家を掘り起こすことになる。それを写真家と一緒に巡り歩いた記録。

 まあ、さまざまな人がいたものだと、あきれ、驚くことになる。そのような個々の人々の名よりも、ここでは訪れた都市の名前を挙げたほうがよいだろう。
八丈島南大東島パラオ(農業)
新潟市(米)
青森市(ニシン漁)
筑豊市、飯塚市(炭鉱)
新居浜市(銅山)
・八王子市、横浜市(繭糸)
・東京と京都(タバコ)
甲府市(鉄道)
・身延市(映画)
・中村(遊郭
 このレポートに登場するのは江戸の終わりから明治・大正のころに起業した人たち。もしかしたら、この時代の人のほうが「グローバル人材」であったのではないか。と思えるくらいに、簡単に海外に出かけ、自力で交渉し、売買契約を結んでいたのだった。商社の力が生まれる前はこういう人たちが販路を拡大していたのだなあ。でも1920年ころから商社の資本が大きくなるにつれて、彼ら独立の企業は衰退したのだが。上にあるのは衰退産業のリスト。その没落から100年たっても、多くの地方都市は活況を取り戻していない。
 あとは、これらの地方の起業家が金をもったときに、ずいぶん地方に還元したり、優れた趣味を発揮しているということ。今の価格に換算するととんでもなく巨額な資金を惜しみなく投げ出していたのだった。そこらへんは昭和の、戦後の、現代の起業家だとなかなかみられないことかしら。
 そうして残された明治から昭和初期の豪華な建築物や収集品は、現在保存することがむずかしい。その理由が固定資産税に相続税というのが物悲しい。屋敷や収集品を保存するために、子孫の多くは土地や山林を売却しなければならなくなった。理念からいえば、特定の一族に資産が集中するのを防ぎ、社会的公共財を充実するために、相続税は必要であると思うのだが、その一方で文化財が四散するのも忍びない。まあ小知恵であればさっさと県や市やNPOに寄付して、保存業務を自治体その他に委託するのが簡単だろう。ここらへんはヨーロッパの文化財の保管方法が参考になるのではないかしら。
 開高健の「オーパ」に同行したカメラマン(高橋磤)の美しい写真が、すでに1990年において挽歌であるというのがふたたび物悲しい。いくつかの都市は行くチャンスがあったのに、この本をすっかり忘れていて、この本の「その後」を確認できなかったのが自分の不明。