odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

真野俊樹「入門 医療経済学」(中公新書)

 医療はサービスに対して対価を払うのであって経済行為とみなすことができるが、一方でサービスの内容や提供者による価格の差異がないなど経済外行為にもみなすことができる。なんでそんなことになるのかということと、医療費が増大していて国や自治体の財政圧迫の原因になっている医療を経済学からみる。なお、医療と医学(薬学、看護学、法学なども)は少し異なるので注意。医療は必ずしも科学的である必要はないし、科学の方法に則って行われているわけでもない。
 あと医療とひとからげにするが、アメリカでは私的財として市場原理で運営され、この国では皆保険制度で公正性を保とうとする価値財として扱われるように国によって制度や思想が異なるので、注意するしなければならない。他の国の事例をそのままこの国に当てはめるのは危険。

医療経済学を理解するために ・・・ 医療の特徴は、「市場の失敗」「国家の失敗」(失敗というと勝ち負けの結果みたいに思えるが、むしろ市場原理や国家統制では対応できないくらいに考えたほうがよい)にある。1.価値財: 誰かがサービスを受けたら他の人はアクセスできなくなってはならない、2.外部経済: サービスの提供者と消費者以外の人にも影響を与える。3.情報の非対称性: サービスの提供者と消費者で情報の質や量に差がある(患者には医療サービスが適正かどうかはんだするのが困難)とか、サービスの内容が適切・適性であるか決定できない、4.分配: 価格による資源配分の適切化ができない、などが市場の失敗の内容。国家が統制する場合には、、需要と供給の予測が困難と官僚制が効率を下げるとか。また公正と効率のトレードオフ(あとここにコストが加わった三すくみになるのかな)があるのも重要。

医療経済学の経済学的基礎 ・・・ ここは経済学史なので省略。厚生経済学にも新旧ふたつあるというのをおさえればよい。

医療経済学とは何か ・・・ 医療が他のサービスと異なる財であるのは、1.人間の基本的ニーズ、2.必要性と費用が予測不可能、3.情報の非対称性にある。追加すると、医療サービスは、不可逆性(やり直し不可)、価値財(公共財の要件:非排除性、非競合性、外部性を完全には満たしていないが、社会的価値があるので強制される財)、医師による需要ゆうはつが発生するという特徴を持つ。

医療と最新の経済学 ・・・ 2006年のトピック。1.情報の非対称性のあるサービスでは、質と価格が一致しない「レモン市場」が発生するが、医療もその可能性がある。2.医療のリスクをリストアップ。患者や被医療者のリスクと現場のリスク。3.医療者のモラルハザード(医療資源の浪費)の発生。医療経済学は、功利主義の視点だけでなく、制度・社会的共通資本の考えをふまえるべきとする。

医療の仕組みを経済学で分析する ・・・ 現在(2006年)の医療の問題点。高齢化・生活習慣病増加による医療費の高騰、新医療機器や技術による医療費の高騰とサービス内容の格差、医師の流出・減少、経済的規制と社会的規制のアップデート、本質サービスと表層サービスの評価、国によって異なる診療報酬体系、医療システム化、経営指標の導入(現在株式会社は医療に参入できない)

医療のプレーヤーとその行動 ・・・ 患者は情報の非対称性がくずれ、権利意識が拡大している。医療機関は統合が進み、ビジネスマネジメントが要望されている。保険は仕組みが複雑で、目的と現状が乖離し、高齢化や低成長が財源不足があり、モラルハザードの可能性が高まっている。行政は利益の異なる業界団体の調整があり、市場への公共政策が複雑でバランスを取るのが難しい(制限と推進、介入と創造など)


 医療と教育は、人間の基本的ニーズで資本主義の前からあるサービス。そこには市場になじみやすいところと市場では対応できない価値を持っているということで、国ごとにどこまでを市場にし、どこからは公共財にするのかは模索している。そうなるのは、その国のサービスの内容と担い手の歴史があるからで、簡単にシステム変更するわけにはいかないという事情がある。なので、この国の医療サービスの不備を他の国の事例をもとに改革しようとしても、そう簡単にいくわけではない。健康保険という制度をみても、あるいは代替医療の取り上げにしても。
 「入門」なので、経済学の基本知識の紹介と医療経済学の事例紹介まで。経済学の基本知識はこの本だと簡単にすぎるので、他の経済学啓蒙書で補完しておく必要がある。医療の問題も深めた議論をしているわけではないので、この本のあとに個別問題ごとの情報を探したほうがよい。