odd_hatchの読書ノート

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サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-2

2014/01/30 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-1


 科学の分野では新発見が妥当かそうでないかの評価は、科学者集団によって検証される。たいていは、複数の研究者に追試検証されたり、従来の科学的知見と矛盾がないことを確認したり、従来説明不可能だった現象を合理的論理的に説明できるようになったりすることで承認される。

 医療の科学的評価が難しいのは、科学者集団以外の人を対象にすることと、「効果」の判定に心理が大きく影響すること、患者・医師・評価者の思い込みが結果の判定に影響すること、あたり。あと、医療では施術の作用機序やメカニズムが明らかでなくても、「効果」があると判定されれば実用してよいのも関係する。
 そこで科学的評価には以下のような仕組みを使うようになった。
1.施術以外の条件が同じ治療者と対照者の二群(充分な数の被験者を用意する)を比較して効果を評価する。
2.治療者と対照者はランダムに選抜されて、特定の条件やバイアスで偏らないようにする。
3.被験者と施術者が、治療なのか対照なのかがわからないようにする。
 こういうランダム化プラセボ対照二重盲検試験を使用する。一施設、一研究チームでは十分なサンプルを得られなかったり、条件がそろわない場合などがあるので、複数の報告を「集計」するメタ・アナルシスという分析方法も使用する。このような方法を取ることによって、被験者・施術者・研究者の思い込みを排除して、施術だけの効果を判定することができる。
 なぜ、これだけの面倒な手続きになるかというと、こと医療施術の「効果」には以下のような状況がかかわるからだ。
A.身体の自然治癒能力があって、たいていの軽微な症状(カゼ、痛み、発疹、発熱、不快感など)は数日から1週間くらいでなくなる。
B.施術以外の条件が効果に影響することがある(他の投薬、栄養、休息、睡眠、衛生、静寂、周囲の関心、タッチング、おしゃべり、カウンセリングなど)
C.偽薬(プラセボ)効果
 これらの不確定条件が科学的評価に反映されると、判定をあいまいにするので、上記の二重盲検法が使われる。そのうえで、1)新薬や新施術を医療現場に使うまでに数段階の試験とレビューを行い、効果と使用方法と副作用を調査する、2)市場に投入された後も、モニターを行い評価機関(たいていは政府機関だ)と開発グループにフィードバックする。3)開発グループはフィードバックをうけて修正や変更などを行い、ときには市場から撤退する。
 こんな具合に科学をベースにした現代医療は評価とフィードバックによる改善を行っている。あわせて、患者に医療を施す医師他の医療従事者は科学的知見に基づいたアドヴァイスや生活改善勧告などを行ない、施術後のモニターリングを行って、施術の妥当性と効果を評価し、ときには施術を変更したり、別の専門家を紹介したりする。こういう具合に現代の医療は患者の個人的状況に踏み込んで、個人別の治療を行う。
 そこまでするのは、医療が公共サービスであって、国家や自治体は健康や生命の維持に力を尽くし、コストをかけなければならないという認識が共通にあるから。
 もちろん現代医療にはさまざまな問題があるが、それは「医療経済学」の視点でみるのがよいと思うので、ここでは取り上げない。
(続く)
2014/02/01 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-3