odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

都筑道夫「証拠写真が三十四枚」(光文社文庫)

 1987年に文庫化されたショートショート集。

 収録されたのは以下の通り。気になったのにはいくつか注釈をつけた。★をつけたのは、2分間ミステリのような謎解き。
金平糖の赤い壺/月のある坂道/妄想図/間もなく四時/つめたい先輩/つかい道 ・・・ 結婚詐欺の話のメタ話/盗まれた休暇/邪魔者/人事異動/かわいいロボット ・・・ ドジッ娘萌えの元祖?/奇妙なアルバイト/★目撃証言 ・・・ 「遠きに目ありて」の挿話に似たトリック/★ゆすり屋/影絵/けむりの輪/五枚のカード/目のなかの顔/この手だれの手/背文字/耳探偵/貯蔵庫/窓辺の女 ・・・ 退職刑事「四十分間の女」のバリエーション/夜ふけの電話/カーテン・コール/★膝栗毛以前 ・・・ 弥次北が小田原の宿でひと騒動。居合わせた戯作者が謎を解く/ひとり傘/企画会議/銀行強盗/悪魔の弟子 ・・・ 「悪魔の取引」のバリエーション/死期/ぐち酒/夫婦ひとり/壺から手/なくした詩集 ・・・ 久生十蘭ハムレット」?と思わせながら、「黄昏の館」「梟の巨なる黄昏」の本の話に変化する。
 小学生のときに星新一ショートショートを何冊も読んだ(当時20巻くらいの選集がでていて、図書館で借りて読んだ。そのうちの一冊はうちに帰る前に学校の遊具にのぼり、夕暮れになる前に全部読んだ記憶がある)。次にまとめて読んだのは、フレドリック・ブラウン筒井康隆だったかな。おかげでショートショートはSFという先入観をもってしまった。
 たぶん創作数であれば星新一に次ぐ作者のショートショートでは、その思い込みが裏切られる。ここにはSF仕立てのものはほとんどない。上記のようにミステリもあれば、怪談もあるし、人情話にもなるし。そこは多彩な舞台。なるほど、各務三郎編「世界ショートショート傑作選」(講談社文庫)や「ミニ・ミステリ100選」(ハヤカワ文庫)などを読んでおけば、アメリカのショートショートはずいぶん幅の広いジャンルをカバーしているのであった。この短編はむしろそちらに近くて、星新一筒井康隆のようなSFに特化するのは珍しいのかも。
 さて、センセーのショートショート。50代を半ばにしたせいなのか、登場人物がたいてい中年から老年にかけて。娘、息子は自立し、妻は子育てを終えて外に出かけたがり、自分は定年ないし引退を見据えて、そろそろ仕事以外の生き方を考えなければならない。そういう人物のところに、誰か(若い男、妖艶な娘、昔なじみの友人、売れなくなった俳優、口のうまいセールスマン、借金取り、ときには悪魔)が来て、彼の生活を脅かす。そうなると、離婚と、世間体、収入の道、など下世話でありふれて切実な問題が浮かんでくる。そこを切り取ってきて、孤独やら狂気やら情けなさをあらわにする。その語り口はうまいなあ、の一言にまとまるのだが、あいにく生活の世知辛さが染みついていて、すっきりしない。いや、そのすっきりしなさを読者に残していくのがこのショートショートのテーマかな。
 星新一筒井康隆ショートショートが、抽象的な、名前を持たない人を主人公にして、生活の世知辛さを持ち込まないように注意していたのと、ずいぶん違うなあ。そのあたりが、センセーとマエストロの違いなのだろう。