odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

都筑道夫「猫の目が変るように」(集英社文庫) 匿名で雑誌に連載したエロティック・コメディ。作者の文体は、股間を直撃するには上品すぎた。

 もともとは匿名で雑誌に連載したエロティック・コメディ。1977年に単行本にしたときに、本名(?)を明かした。この文庫では、匿名の時に使ったペンネームで解説を書いて、本名に文句を言っているという凝った仕掛けになっている。

海からきた女 ・・・ 上野のスナックで出会ったピンク色の肌の若い女能登から来た女に声をかけると、ホテルまでついてきた。そのまま半同棲になったが、彼女はフィアンセを置いてきたのだという。なぜか?

ブルーフィルム  ・・・ sexに恐怖を感じる女のためにブルーフィルムを撮影しようという提案。ちょうどまとまった金が欲しいので、高校生の実紀は前金をもらって、下宿にでかけた。そこには資金を出した男のカップルも入て、その前で行うことになった。最初の話が少しずつずれていって。

起された女 ・・・ プロジェクトが終わって夫が仕事仲間を家に誘って打ち上げ。そのまま泊まることになり、夫はすぐに寝てしまう。仕事仲間は妻に手をだし。翌日、なぜかよそよそしい夫は旧友から飯の誘いがあって出かけた。気になって追いかけてみると。そのあとに二転三転。貞淑な妻というのが変わっていく心理は怖いのかなあ。

同棲志願 ・・・ 兄夫婦のアパートを間借りしている大学生、ガールフレンドのマンションに上り込みたいが、いつも拒否されてしまう。そこで、監視することにしたら、案の定はげの中年男を部屋に連れ込んでいて。

裸の裏切り ・・・ 仕事のあとOL仲間と読み歩いた後、アパートで寝ていたら、誰かの男に抱かれていた。気持ちの良い体験だったが、そんな仕掛けをしたOL友達が憎らしい。あいつの男をあたしが奪おう、と決めて、誘いの電話を入れた。新宿ゴールデン街のバーで飲んでいたら。

孕みてえジェーン ・・・ 新宿ゴールデン街のバーで裸になって踊っている女はタイトルの異名をもつ有名な女子大生。気になって誘ったら、金を貸してほしいと言われた。その直後から、孕みてえジェーンは新宿から消える。見かけの奔放さと古風な心理の入り混じった女。

女の中を流れる川 ・・・ 神田川の異臭がただようアパート。スナック勤めの女は同棲相手とだらだら暮らしている。頭の痛いまま、勤めにでるといつになく飲みすぎて、ドクターのあだ名の中年男に送られたが、そのままホテルに行って。男遍歴を重ねて不敵というかたくましくなる女。

小鳥の騒ぐ日 ・・・ 電機商店の店番をしている高校生が気に入って、OLは口実を設けて部屋に呼び、そのまま誘惑した。そのあと呼び寄せたら、高校生ではない男が部屋に忍んできて。これは逆「ロリータ」だな。高校生はいろいろなところで女に誘惑されているというし。ま、どっちも手ひどいしっぺ返しを喰らうのだがね。

霜降橋界隈 ・・・ 隣りの高慢ちきな女にしかえしをしようと、いつもより大きな声をださせ、こけし(古いね)をベランダに於いてきた。そうしたら同棲の女は腹を立て出ていって、腹いせに隣の女に因縁をつけたら、話が転がっていって。

罪な指 ・・・ 悪徳警官だった私立探偵の依頼で、ビジネスマンの封筒を掏り取ったが、中身は空だった。そこで思い当たる女を見つけると、それも凄腕のすり。その女は封筒の中身をしっているはず。どうやって聞き出すかを考えていたら、私立探偵の娘がさえたやり方を提案してきた。


 艶笑小説。とはいえ、そこはセンセーのこと。読者の期待する描写だけでなく、その他の仕掛けを満載。なにしろ、登場する主人公には同じ境遇がいない。毎回異なるシチュエーションにしているのだ。まず、そのような作家の矜持に感嘆する。
 そのうえで、エロティックな描写のあとドンデン返しがあって、あるいは主人公の豹変があって、と、エンターテイメント小説の面白さも追加。ここらへんはなんともサービス旺盛。
 なんだけど、あんまり楽しめなかったのは、エロティック描写が物語のスピードを止めてしまうことかな。作者の文体は、股間を直撃するには上品すぎるのだよね。そのために、どっちつかずになってしまって。もちろん凡百のエンターテイメントよりずっとおもしろいのだが、センセーの作の中では落ちるかなという感じ。贅沢をいいすぎていると思うが、しかたがない。