odd_hatchの読書ノート

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デイヴィッド・ウイングローブ編「最新版SFガイドマップ」(サンリオSF文庫)

 1972年のジョン・ガッテニョ「SF小説」(文庫クセジュ)ではSF小説の未来は明るい。それから12年後の1984年にイギリスで出たこの「最新版SFガイドマップ」になるとSFは危機にあるか解体寸前であるような認識に変化している。どういうところが危機かというと、SFの手法がほかの小説に使われるようになってきてジャンルの境界があいまいになっている、SFの書き手もほかのジャンルに手を染めている、SFのアイデアが枯渇してる、活字よりも映像のほうがSFらしくなっている、そして読者が減少している、というところだ。評者は古くからのファン上がりのためか、SFの最良のモデルは1940-50年代の黄金時代にあると考えているようなので、要するにSFはあの時代の大衆小説的な面白さを持ちなさいよという批判だ。作家とジャンルに関する危機はほぼ同時代のこの国のSF作家も共有していたようだ。まあ、自分は筒井康隆の1980年代の随筆くらいでしか知らないのだが。なお、但し書きをしておかないといけないのは、このガイドマップはサイバーパンクの登場直前に書かれたもの。

 SFの概況と歴史を書いたのはブライアン・オールディス。この人も上のような危機感を共有する一人。彼によると、SFは表現様式であって、実証主義が根底にあるという。ただ、ほかの小説の形式を借りているものだから、ときにロマン主義に傾く作品や作家もいるけど。ガッテニョはSFの創始をヴェルヌに置くが、オールディスはメアリー・シェリー「フランケンシュタイン」とする。それぞれお国の先達を上げていてほほえましい。この国だと「竹取物語」が…という論者はいないことを願う(笑)。あとイギリスには1920-30年代に教養小説の書き手がSFテーマを取り上げた。ハックスリー「すばらしい新世界」、ステープルドン「最後の、そして最初の人間」、オーウェル1984年」など。なので、たいていのSFの系譜では無視されるハイブロウな教養小説に章を割いている。ここはほかの国のSF史にはないところだと思う。
 この本では、SFのテーマをつぎのようにする。
人間と機械/ユートピアディストピア/タイムトラベル/異星人/宇宙旅行/銀河帝国/ESP/大災害/宗教と神話/パラレル・ワールドともう一つの歴史/セックスと官能性/異星の生態学エコロジー)/魔法/メディア/内宇宙
 この章はブライアン・・ステイブルフォード(サンリオSF文庫に10冊くらい邦訳がある)が書いている。この分類は網羅的であるのか、目につくものをあげただけなのかはっきりしない。ガッテニョ「SF小説」のテーマと比べると、科学の進捗や社会の変化に応じているのがよくわかる。エコロジーやセックス、宗教というのは1970年代を通じてSFが取り込んできたテーマといえるから。上にあげたけど、このガイドマップはサイバーパンク以前。そうすると、科学と社会の変化や発展はまだまだSFに新しいテーマとアイデアを送ることができそう。一方、上記のSFの危機で指摘された読者の減少は、たんにSFだけにとどまらないらしい。それはまた別に考えることになるだろう。
 面白い指摘は「大災害」で、1970年代前半に同じテーマの映画が流行ったのもあるし、核戦争後テーマが浮上してきたし、エコロジーテーマのユートピア小説がたくさん書かれたのもある。そのテーマの小説はしばしば自分(と少数の友人)のみが生き残る。それは気に入らない他者を排除し自分を英雄にする願望充足ファンタジーで、孤島小説と近接したものだって。ここは今の作品(小説でも映画でもアニメでも)に通じる痛切な批判になっていると思う。
 あとは、さまあまな作家がどのようにアイデアを得るかという短文と、雑誌の紹介(作家をめざすならここに持ち込めという案内だ)。
 複数の作家が書いた短い文章を集めたものなので、全体を貫く主張やテーマがあるわけではない。評論も見事さを期待すると肩すかしにあうが、そのかわりに浩瀚な書誌情報がついている。これは邦訳担当者たちの編集によるもの。まあ、30年前のものなので古いのだが(当時はとても重宝した)。黄金時代からの名作はハヤカワや創元で翻訳済、新興のサンリオはこのガイドマップで評価の高い小説を翻訳、という具合にこの国の翻訳SFはとても恵まれていた(と過去形で書くのは現状を知らないから)。タイトルには「入門・歴史編」とあって、別に作家編上下が出された。本屋で見かけた記憶はあるが、自分は買わなかった。