odd_hatchの読書ノート

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町田洋次「社会起業家」(PHP新書)

 現在の社会保障制度は、高度経済成長や人口構成がピラミッド型で平均寿命の短い時代に作られたもの。それが変わってきて、負担の増加に国家はアップアップしている。これまでは、多人数の家族親族や地域コミュニティが社会保障制度の一部を担ってきたのだが、国民国家がこの国にできてからはそれを国家が代行するような仕組みを作ってきた。歴史的には、明治10年代以降、15年戦争時代の国家総動員体制、1970年代からの田中角栄福祉国家構想。その間には、社会保障を社会の中に作る動きがあったが、国家はそれを崩すようにしてきた、というのが著者の見方。そしてバブル崩壊後の低成長経済ないしマイナス成長経済において、「小さな国家」を標榜する保守政党社会保障の削減と家族への押しつけを行っている、というのは自分の見方。

 さて、そのように社会保障を国家が担えなくなったとき、どうしようというのがこの本の問題提起。労働年齢の間に充分な貯蓄を持てる人は少数であるし、インフレが進めば蓄えはふっとぶ。となると、人と人が協力し合い社会の関係ができるのがよいでしょう。通常学者はここまでしかいわないが、ビジネスや自治体にいる人はもう少し踏み込む。国家(自治体)と個人が担いきれない社会保障は、社会起業家の活動で補うようにしましょう。
 社会起業家は「医療、福祉、教育、環境、文化などの社会サービスを事業として行う人たち」とゆるく定義する。自治体の内部の人がそのような動きをする場合は「市民起業家」と呼ぶらしいがここではどうでもいい。英語ではソーシャル・アントレプランナーとかグラスルーツ・リーダーというらしいが、ここではどうでもいい。またこのような概念がなくても、過去には社会起業家といえる活動をした人はたくさんいて、この国でも明治時代からたくさんあげることができる。低成長経済時代でここに脚光が浴びるのが、会社員や自営業だけではない別の生き方を提示するところにもあるといえる。
 仕事の対象は、上記のように社会保障や社会サービス。たんに公共サービスを代行するだけではなくて、創造的ななにかをプラスする(被サービス者の要望をくみ取り事業化する)ことと、利益を出して社会と「社員」に還元することが必須になる。ボランティアでもいいかもしれないが、持ち出しでは双方に勘違いやずれが生じるし、なにしろプロではないのでサービスの品質が悪く、継続しない可能性がある。なので、ビジネスやマネジメントの経験を持つプロがコントロールすることが重要。ここも重要と思うが、社会起業家の仕事は地域の新規事業創出と連動することが必須。社会保障の負担が増えるのは、就業機会が少なく収入が途絶えることになるから。地域の既存事業がだめであり、国家の公共事業に依存できないのであるから、新規事業を立ち上げ雇用を創出しないといけない。社会起業家社会保障や社会サービスを充実することで、新規事業のイノベーターや生産性の高い従業員が長く生活したいと思うような社会をつくることになる。この両方がないと、地域の復興や社会保障の充実は実現できないだろう。
 あと社会起業家の仕事は、ビジネスと同じような自己や他者の評価をきちんと行って、使命を進化させているか、顧客を満足させているか、社会に役立っているかなどで評価し、競争的な環境で仕事をし、失敗したものは退場することが必要とされる。それは、国家のつくった社会保障の受け皿である公益法人が軒並み赤字、現在のニーズに合う事業を行っているのはわずかなどの調査があるから。
 社会起業家の活動はアメリカやイギリスが先行しているので、この本ではその事例や研究報告が多く紹介されている。
 とても元気になる本で、こういう社会になるといいなと思う(ただ、自分はリーダーシップとヴィジョンの提示とネットワーキングの技量を決定的に持っていないので、立ち上げられないです)。21世紀最初のゼロ年代には、社会起業家はいろいろ喧伝されていたが、いまはさてどうなっているのか。とりあえずこの本で紹介された事例は15年を経ても生き残って事業を継続しているのを確認した。そこは安心。