マルコヴァルドさんは都会に住む人夫(倉庫勤務の工員だ)。奥さんと4人の子供が狭苦しい家に住んでいる。彼が得意なのは街中に自然の息吹を見つけることだが、それに感心するひとはいない。自分や他人のために良かれと思って行ったことは、たいてい失敗するか思惑通りにはならない。それでもけなげなマルコヴァルドさん。
春 都会のキノコ ・・・ 街中にキノコを見つけておいしいキノコスープを夢見ていたら♪
夏 別荘は公園のベンチ ・・・ 部屋の中では眠れないので公園で眠ろうとしたら♪
秋 町のハト ・・・ シギが飛んでいたので、屋根にトリモチをつけていたらハトが捕れた♪
冬 雪に消えた町 ・・・ 工場の雪かきを命じられていたら、道の雪かきと競争になって♪
春 ハチ療法 ・・・ リューマチ治療にハチに刺されるのがよいと言うので、試したみたら大繁盛♪
夏 土曜の午後、太陽と、砂と、まどろみと ・・・ リューマチ治療は砂に埋もれるのがよいというので、試してみたら♪
秋 お弁当箱 ・・・ 前日の残り物の味気ない昼飯を、よいとこの坊ちゃんの昼飯と交換してみたら♪
冬 高速道路ぞいの森 ・・・ あまりに寒いので薪をとりに外に出たら、都市のまんなかに「森」があったよ♪
春 おいしい空気 ・・・ おいしい空気を吸えるのは市内のはずれの岡のうえだけ。そこで一家が会った人たちは♪
夏 牛とすごした夏休み ・・・ 深夜に牛飼いが町を通り過ぎて言った。ついていった長男はよい暮らしをしているだろうと想像していたら♪
秋 毒入りウサギ ・・・ 病院から退院することになったので、ウサギを持ち帰ることにしたら♪
冬 まちがった停留所 ・・・ 霧の深い夜、映画館をでて道に迷ってしまったら、思いがけない停留所に案内された♪
春 川のいちばん青いところ ・・・ 安全な魚が食べたいと思っていたら、町の中にコイのたくさんいる池を見つけた♪
夏 月と《ニャック》 ・・・ 夜の部屋に明かりがうるさい(コ)ニャックのネオンサインをパチンコで壊したら、ある博士にほめられた♪
秋 雨と葉っぱ ・・・ 倉庫のかげで枯れそうな小さな植木の世話をしたら、どんどん大きくなっていって♪
冬 スーパーマーケットへ行ったマルコヴァルドさん ・・・ お金のない一家がスーパーマーケットにいったら♪
春 けむりと風とシャボンの泡 ・・・ 洗剤会社の無料クーポン券を子供たちが集めて、大量の洗剤が手に入ったら♪
夏 都会に残ったマルコヴァルドさん ・・・ バカンスにいけないので無人の街を楽しんでいたら、突然インタビューされたよ♪
秋 がんこなネコたちの住む庭 ・・・ 街のまんなかにある公爵夫人の古い屋敷にはたくさんのネコが住み着いていて♪
冬 サンタクロースの子どもたち ・・・ クリスマス商戦でサンタクロースに扮したら、息子が会社社長の息子に「恵まれない子のプレゼント」を贈ったよ♪
1958年の作。都会の風景はたとえばフェリーニ「甘い生活」とかアラン・ドロン主演「太陽がいっぱい」あたりのころかな。現代、とくに資本主義が徹底して大量消費社会が始まるころ。都会に流れ着いた流れ者は、狭苦しい部屋に押し込められて、つましい生活をしていた。そんなありふれた、しかもくたびれきった生活にファンタジーを見出す作者の視線のなんと射程の深いこと。
春夏秋冬の物語が5回繰り返される。他の作品と同じように、同じテーマを繰り返しているはずなんだ。俺がみたところ
春 ・・・ 都会の中の自然(というよりそれと対照的な環境汚染)
夏 ・・・ 都会に住む人々とのコミュニケーション(というより行き違いとかすれ違いとか)
秋 ・・・ 都会にいる動物や植物などとの交感(というよりこちらの思惑が思わぬ不幸を呼び起こす)
冬 ・・・ 大量消費、宣伝の企業活動(というよりその迷惑)
について。最初のほうの短編はリアリスティックで、後のものになるほどファンタジーの度合いが大きくなっていく。ここに現代社会の批判や皮肉が含まれている。あと、通奏低音のようなテーマに貧困がある。こういう仕掛けに留意し、読者の隣人であるマルコヴァルドさんの運の悪さに憐憫を感じながら、笑いのあとに背筋の寒くなる思いをすることにしよう。これを少年少女に独占させるのはもったいない話で、年取ってから読んだほうが見につまされるにちがいない。
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