odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ジョン・ディクスン・カー「三つの棺」(ハヤカワポケットミステリ)-2

 ここでは密室講義についての感想。
 「密室」の分類が困難なのは、最初には「密室」の定義があいまいなため。通常は、物理的に密閉された部屋の室内で被害者いて、犯人が消失。出入りは通常は不可能。あたりになり、まあ窓、ドア、天井、床などの部屋を構成する要素がいずれも施錠されている状況あたりになるか。とはいえ、広義になると、窓は開いているが部屋は高所にあって、岩登りの装備でもないかぎり出入りできないとか、部屋は密閉されていないが出入り口は監視されていて出入りがないという証言があるとか、高速移動中の乗り物の内部でおきて外からの出入りができないとか、まあさまざまなパターンがでてくる。そうすると、「密室」は何? どこまでの範囲に入れたうえで分類するの?というわけになる。カーの講義は狭義の密室を想定しているので、当然のことながら広義の密室には適応できない。そういう困難は、カーに限らず乱歩やローソンや他の人々の分類にもあるわけで、なかなか決定的な分類はできないのだ。
 そこで「ぼくのかんがえたさいきょうのみっしつぶんるい」をやってみたりする。
 前提にするのは、密室事件には次の5つの時刻があるということ。
1)部屋が密閉された施錠時刻
2)犯行が行われた時刻
3)被害者が死亡した時刻
4)犯行を発見した時刻
5)部屋を開錠する時刻
6)犯行のあった場所が「密室」と認定された時刻
 たいていの人が言うけれど、完璧な密室というのは物理的にありえなくて、どこかに穴があいている。その穴がどこにあるかというのが密室のしかけ。そういう観点でみると
A.部屋から脱出する ・・・ 施錠装置を使用するのがおおい。例の針と糸だったり、雪玉や氷だったり。時計や人形に仕掛けたり。どこかの穴だけあけておいて、犯行の後に脱出するという仕掛けもあり。天井、窓、床、暖炉などなど。
B.部屋に侵入する ・・・ どこかの穴を使って侵入し犯行を行うというもの。穴は通風孔だったり、窓だったり、扉だったり、まあいろいろ。そこに弾丸、毒薬、ナイフなどなどを入れることもある。
C.錯誤させる ・・・ 密室事件の時間割は1から6の順番で起こり、その間に犯人が侵入し消失しているというのが、読者や間抜けな警察、ワトソンくんたちの錯誤。作品名をあげるわけにはいかないが、被害者が犯行を受けた後移動して部屋を施錠するというのは、2→1→3→4→5の順だし、部屋に飛び込んだ直後に発見者がナイフを刺すというのは1→4→5→2=3だし、この部屋に閉じこもってもらうと宣言したうえで被害者が施錠した後に殺されているのが発見されたというの2→1=5→3→4だという具合。扉を壊した後に鍵をテーブルの上に置くのは犯人消失があったと錯誤させるという具合。プロットは順番がさまざまであるけど、事件が「発見」されると、1から6の順番で起きたという思い込み、ドクサが生じて不可能な密室になってしまう。とりわけ、1と5の時間の間に2から4が起きたというのが強固な思い込み、ドクサになるのだ。思い込み、ドクサを「歴史的遠近法」「遠近法的倒錯」という、なんちゃって。
 でも、その順番とおりでないとすると、あるいは犯人の侵入や消失がないとすると、どこかの時間に穴が開いていて、そこでは犯人・被害者とも出入り自由になっている。このCの仕掛けで重要なのは、だれかが「これは密室事件」だと宣告すること。その宣告があることで錯誤が生じ(とりわけ読者に)、不可解な密室になる。この「密室宣言」を行うものはおおざっぱにいうと、1)犯人、2)被害者、3)関係者、4)探偵にわけられる。最終的には探偵が承認することで手続きは完了するのだが、最初にいいだすのは探偵とは限らない。
D.事故や自殺を誤認する ・・・ そのまま。
 とはいえ、「密室」事件は、このうちのひとつのトリックだけで成り立つわけではない。たいていは組み合わせが発生。レコードで被害者の声を再生し犯行時刻を誤認させるのとBが組み合っていたり、自殺のあと凶器をそとに脱出させて他殺に思わせたり、という具合。
 さらに、これらの仕掛けを施すのが、1)犯人(または共犯者)、2)被害者、3)無関係な第三者の場合がある。
 以上を組み合わせて3(施術者)×4(方法)のマトリックスを作ることが可能。これくらいのマスを用意しとけば、大概のトリックはどこかに当てはまるし、C(錯誤)のバリエーションも区別すれば、もっと複雑な分類にできる。まあ、自分はこの分野に詳しくないので、やる気はないけど。
 ただ重要なのは、「密室」事件は存在しない。あるのは、「これは『密室』事件だ」という思い込み、ドクサだけ。
 というわけで、「ぼくのかんがえたさいきょうのみっしつぶんるい」をお笑いください。