odd_hatchの読書ノート

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堀田善衛/司馬遼太郎/宮崎駿「時代の風音」(朝日文庫)

 宮崎駿が敬愛する作家の堀田善衛司馬遼太郎を招いて、鼎談を行った。その記録。1992年夏ごろの座談かな。半分くらいは司馬遼太郎がしゃべっていて、その博学なことに驚く。ここでは、自分の趣味にあわせて、堀田善衛の発言にフォーカスを当ててまとめてみる。まあ、話題があっちこっちに飛ぶから(学者のように結論を出すことをしない)、なかなかまとめられないのだよね。落としてしまった面白い話がたくさんあるので、読むごとに新しい興味がわくと思う

1.二十一世紀とは ・・・ ソ連東欧が自由主義経済に移行したことで、「外国(理解や対話の不可能な国という意味)」は北朝鮮キューバイスラエルが残った。近代社会の根っこをつくったのはナポレオン。ヨーロッパではヴァチカンの放送が重要(領土を持たないから冷静で原則的)。時代の空気はつかみがたい(あとになると、なぜあれほど共産主義やファナティズムに熱狂したかわからなくなる、など)。
2.国家はどこへ行く ・・・ 堀田善衛/加藤周一「ヨーロッパ二つの窓」(朝日文庫)と重複する内容。司馬の指摘で、鎌倉時代からこの国は鎖国にはいったというのがある。あと、ステートができる前の国をランドと呼んでいた。
3.イスラムの姿 ・・・ イスラムはアラブ地方、北アフリカ、スペイン、黒海周辺までを統治する大帝国をつくったが、他宗教には寛容だった。これが非寛容になり武力を押し出すようになったのは、十字軍以降。ヨーロッパは十字軍やその後の交易を経験して、ゆたかな社会・贅沢な社会を知り、その影響を受けた。18世紀のオスマントルコ帝国の滅亡後は、イスラムの影響が少なくなる。1990年前後にこの国にイラン人が多くいたのは、帝室同士ということでイラン人はビザなしで入国できたからとか、イスラムの請負制はこの国にも影響があるとか、義務の概念はプロテスタンティズムで生まれるとか。
4.アニメーションの世界 ・・・ 「日本中世の京の闇と魔物の話をアニメにしろ」と司馬が宮崎にけしかけている。それが「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」になったのかな(自分は2作とも未見なので、わからない。対談は「紅の豚」が最新作のころ)。
5.宗教の幹 ・・・ 13世紀には日本とヨーロッパで宗教改革が同時に起きた。カソリックプロテスタントは「正統派」「抗議派」と訳すほうが理解しやすい。明治維新以降、この国の人の生活の精神的権威(ヘルムート・プレスナー「ドイツロマン主義とナチズム」講談社学術文庫を参照)を支える思想や宗教がなくなった。「軍人勅諭」「教育勅語」はその代替物として使用された。
6.日本人のありよう ・・・ この国はアジアの友人を持ってこなかった。少子化は住民の半数が他国の人である状態を生むが、そのような国際化を考えたほうがよい。それはアメリカも同様で、白人の高齢化が進み、21世紀半ばには人種バランスが大きく変わり、権力が白人から移動する。あと、ヒトラーが出たために、ドイツはドイツであることを主張できず、ヨーロッパでなければならなくなった。あと、共産党軍が水滸伝の伝統を持っていた(人民を略奪しないで支援する、官軍は略奪する)。
7.食べ物の文化 ・・・ さまざまな場所の食べ物の話。面白いのは、18世紀まで、ジャガイモが普及するまで、ヨーロッパの食事は貧しかったとうこと。日本軍は中華料理を取り入れなかったこと。
8.地球人への処方箋 ・・・ おもに製鉄のために木を切った国は丸禿になって復活しない。木を切ることが文明を滅ぼす。


 自分の良く使う「この国」は堀田善衛の真似だけど、もとは島崎藤村だったと堀田さんがいっていた、なるほど。いずれ藤村も読んでみよう。
 宮崎駿のあとがきに、司馬遼太郎が「人間は度し難い」といったら、堀田善衛が座りなおして「そうだ、人間は度し難い」といったと書いてある。ここは重要。歴史に学べと、上は総理大臣から下は教師にブロガーまでいうのだが、実践されたためしがない。それほどに「人間は度し難い」。にもかかわらず人間に期待しないといけない。そこのところの楽観と悲観の持ち方が難しい。まあ、だれかが言うように短期的には悲観的で、長期的には楽観的で、というのが適当なのだろう。それほどの余裕と猶予を21世紀のこの国と人間はもっていないようなのだが。それを含めて「にもかかわらず」と腰をあげることになるのかな。
 堀田善衛司馬遼太郎のお二方とも彼方にいかれてしまって、寂しい。彼らの新しい言葉を聞きたい。