odd_hatchの読書ノート

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中村隆英「昭和恐慌と経済政策」(講談社学術文庫)

 昭和恐慌の時代は別の本の感想でまとめてきた。 
徳川直「太陽のない街」(新潮文庫) ・・・ 同時代の不況と労働争議の様子をみるのによい。
高橋亀吉/森垣淑「昭和金融恐慌史」(講談社学術文庫) ・・・ 高橋亀吉井上準之助の向うを張って、金解禁反対論を主張した人。戦後になって、彼の弟子と一緒にまとめた。
長幸男「昭和恐慌」(岩波現代文庫) ・・・ 1970年代の昭和恐慌研究。


 この本は、1967年に書かれたもの。昭和恐慌の全体をおおざっぱにとらえるには、まずこの本から入るとよいのではないかな。経済・政治・軍事などのこの国の政策全般が記述されているうえの、西側西欧諸国とアメリカの金本位制に関する金融政策も書かれている。どうしても金融政策に注目した記述になるので、同じ時代の歴史書を事前にいくつか抑えておいたほうがよい。文庫に入るにあたり(1994年)、平成不況との類似をまとめている。平成不況から失われた10年間(20年間?)の全体を見るには、もう少し後に書かれた別の人の本がよいと思うので、今回の再読ではスルーした。
(平成不況関係の本では、金子勝「長期停滞」(ちくま新書)、佐和隆光「平成不況の政治経済学」(中公新書)、小野善康「不況のメカニズム」(中公新書)、岩田規久男 「「小さな政府」を問いなおす」(ちくま新書)伊藤修「日本の経済」(中公新書)ポール・クルーグマン「世界大不況への警告」(早川書房)などを読んだ。)
 金本位制の復活は、1920年代不況の金融政策としては古典経済学の模範的な解答。ケインズ以前の経済学者としては、これ以外の妥当な政策はなかっただろう。ただ、いくつか見誤ったところがあって、すでに資本主義のグローバル化は進行していて一国内の最適な政策が世界経済の中では最適解にならないというところ。それから経済の中心がイギリスからアメリカに移動していたことに気づかなったこと。
 この時代は大正デモクラシーと重なっている。内には民本主義というわけで、政党政治ができたのだが、名誉革命直後のイギリスみたいにさまざまな階級・産業などの代表が政権をとりあって、機能することが弱かった。上のような経済政策でも足並みをとれない。リーダーシップの弱さが国民から愛想をつかされる原因にもなる。外には帝国主義を支持するために、その政策には一致するということで、軍部の独走を追認することになる。結果として、金本位制を廃止したのと同じ時期に政党政治が命運を絶たれる。そのあとは、形式は民主主義だが実質は軍国主義に。それを後押ししたのはメディアであり、大衆であり、インテリであり…。
 日本型ファシズムに傾斜していく過程はおもに政治や精神の歴史として語られるのだが、このような経済政策から見る機会はなかなかない。不況、失業などの社会不安が全体主義への渇望になり、政治体制の一新(それは「革命」と呼ぶべきもの)を待望するようになる。それが実現したこの国の近年の例であるので、自分は興味を持っている。