odd_hatchの読書ノート

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赤塚行雄「戦後欲望史 4・50年代」(講談社文庫)

 表紙は左から吉田茂美空ひばりマッカーサー元帥、マリリン・モンロー力道山。この時代を象徴する人物としては欠かせない人たちですな。漏れているのは・・・思いつかない。

 1985年にシリーズ3部作がほぼ一気に発売。戦後40年ということで、昭和をふりかえることになったわけだ。この本の特色は、犯罪でもって戦後のそれぞれの時代をみようというもの。小説よりも犯罪のほうに「現代」がヴィヴィッドにあからさまにみえてくるものがある、とりわけ「欲望」という切り口からその時代の人々が何を望んでいるか、なぜそれを望むのか、なぜ不足しているのか、を見ることができるから、あたりがモチベーションなのだろう。小平事件、光クラブ社長の自殺、金閣寺放火事件、などが紹介されているが、さらに帝銀事件下山事件・血のメーデーあたりは基本知識(?)として押さえていてほしい。
 面白いのはときに触れて書かれる著者の自伝。すなわち1930年に横浜に生まれたため、戦中はもちろん帝国軍人を目指していて、しかし、終戦と同時に進駐軍をみることになる。隣家が空き家でGIとパンパンたちが使う家になり、とりあえず英語の授業を受けていたから、という理由でGIたちの通訳兼苦情処理係になるという経験をハイティーンのころにもつ。なので、彼の視線は性に向けられていくのだ。
(民間人が占領軍らと交流するという経験は、淀川長治「自伝 上下」(中公文庫)にもある。)
・まあようするに、進駐軍・昨日まで「鬼畜米英」と呼んでいた連中が自分らのかしらになるということで、政府は混乱していた。最初、かどうかは不明にしても、の発令はRAAという広告であって、事務仕事のあっせんといいながらも実のところは進駐軍向けの慰安施設の従業員を募集することであり、それは実際に作られ、多くのGIと将校が使ったのだった。そういうインサイドとアウトサイドの境にあるわけのわからない場所を作ると俄然この国のトップやエリートは張り切るらしく、食と酒と性を進駐軍に提供しては情報を引き出していたというから、彼らもそれなりにたくましいのではなかったか。パンパンとシューシャインボーイだけがいきいきとしていたわけではない。
進駐軍には2種類あって、ニュー・ディーラーとバターン・ボーイズ。そのままGC(民政局)とG2(参謀部)にかぶさる。でもって、占領直後の政策はおもにニュー・ディーラーによって立案されたが、彼らは主にアメリカ中西部の出身。そこの施策に彼らの理想が加わって「戦後民主主義」の政策となった。なので、戦後のこの国の変革がアメリカの全体を反映しているわけではないことに注意。まあ、ニュー・ディーラーもこれまでどこにも存在しなかった場所を作ることに熱心であったわけだ。もちろん、だから彼らの成果をけなすことにはならない。この国の人々はなかなかしたたかで、実力行使を伴う反抗をすることはないが、進駐軍の指示をなしくずしに骨抜きにし、戦前の体制を維持することに成功したのだから。
2015/04/10 竹前栄治「占領戦後史」(岩波現代文庫)
・戦争はこの国を貧しい状態で一律同じにしてしまった。まあ、自分も貧しいが隣も貧しいのでお互い様、という状態であったわけだ。2010年からのNHK朝の連続テレビ小説はどうもこの時代を描くのに熱心になってきたが(「ゲゲゲの女房」「カーネーション」「梅ちゃん先生」など)、そのときみんな貧しいとみんな美しい、とでもいう描き方をしているみたい。そのことはまあおいておくとして、昭和25年ころからは経済成長が始まり、最初は企業が儲かるようになり、それが再投資に回り、税収の増加が公共投融資にまわり、さらに企業が利益をだすという循環になって、人々の生活は後回しになった。にしても、給料がキチンと支払われ、次第に上がっていくのであれば、衣食住は次第に充実するのであった。しかし、そこから取り残される人もいたわけで、上の犯罪でいくつかはそういう人々がおこしている。周りはいい調子なのに、なんで俺は取り残されているのだ、俺もあいつらと同じなっていいだろう、というわけで犯罪にむかう。
小田実「旅は道連れ、世は情け」(角川書店)
 さて、2010年代になると、事態は逆か。周りは落ちていないので、なんで俺は落ちこぼれているのか、俺と同じ状態になることがいかに苦しいか思知らせてやる、というわけで犯罪に向かう。のかしら。

戦後欲望史 (混乱の四、五〇年代篇) (講談社文庫)

戦後欲望史 (混乱の四、五〇年代篇) (講談社文庫)