odd_hatchの読書ノート

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エラリー・クイーン「クイーン談話室」(国書刊行会)

 エラリー・クイーンは作家のほかに2つの顔をもっている。ひとつは探偵小説の書籍収集狂(この本の中で狂気の程度でいくつかに分類)、もうひとつは編集者。後者の顔の結果、おおくの短編集が編まれていて(いくつか創元推理文庫などで出版)、EQMMという雑誌になった。刊行からしばらくの間は、かつて雑誌に収録されてそのまま埋もれた名作を掘り起こすことを主眼にしていた。このビブリオマニアと編集者の仕事によって、いくつかの名作がよみがえった。たぶん江戸川乱歩編の世界短編名作集には、彼らの発掘した短編があることだろう。

 で、この本はEQMM採録した短編を紹介する短いコラムを集めたもの。クイーンはダネイとリーの二人の合作ペンネーム。通常はダネイがストーリーと人物を作り、協議のうえでリーが小説にしたとされている。ビブリオマニアとして有名なのはダネイのほう。というわけでこのコラムはダネイの筆による(と推測される)。なるほど、普段の小説とは違って非常の凝ったいいまわしに珍しい語彙を使っている(という)。なので翻訳者は苦労したとのこと。お疲れ様でした。
 さて、訳者あとがきにあるように、このコラムは何度も引用された本であるとの由。すなわち、カーとロースンがそれぞれ密室状況を考えたが合理的な解決を見つけられず呻吟していた。それをクイーンもいる席で話をしていたら、互いに相手のアイデアの解決を思いつき設定のアイデアを交換した(カー「爬虫類館の殺人」とロースン「天外消失」)。世界初の女性探偵はだれかとか、ミステリーはフーダニット・ハウダニットホワイダニットの順に新たな領域を開いてきたとか、いろいろな作家にベストテン選びを頼んだとか。昭和40-50年代の探偵小説うんちく本にこれらのエピソードは良く書かれていたな。そのネタ元になる。
 また、作品紹介のコラムを書くのがうまい作家がいて、江戸川乱歩とかアイザック・アシモフとか。それにクイーンが加わる。でも、前者はおもに自作解説で文庫本に一緒に収録されるが、クイーンのでまとまったものはこれくらい。そういう点では貴重。まあ、クイーンの編んだアンソロジーには、短評が載っていたので、そちらで読んだ読者は多いかも。
 ミステリーに興味を持つとその周辺状況にも興味をもつようになり、そういう人には便利。でも書かれたのは1940-50年代なので、情報は古い。レトロマニアでないと登場する作家を知らない人もいるのではないかな。ナイオ・マーシュとかブレット・ハリディとかアンソニー・バウチャーとか。自分はたまたま九鬼紫郎「探偵小説百科」(金園社)を読んでいたので、なじみのある名前ばっかりだった。でも彼らの著作は品切れ、絶版でほとんど知らない。
 なので、読者を選ぶなあ。よほどの好事家向けです。

エラリー・クイーンの選んだ探偵小説ベストテン」で検索してここに来た人がいるので、参考までにリストを載せます(1943年選出)。
ガボリオ「ルルージュ事件」
コリンズ「月長石」
ドイル「緋色の研究」
ベントリー「トレント最後の事件」
クロフツ「樽」
クリスティーアクロイド殺害事件
ヴァン・ダイン「ベンスン殺人事件」
ハメット「マルタの鷹」
アイルズ「犯行以前」


ヴァン・ダインのベスト11(1928年選出)。
ベントリー「トレント最後の事件」
メイスン「矢の家
クロフツ「樽」
へネスト(フィルポッツ)「誰が駒鳥を殺したか」
フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」
フリーマン「オシリスの眼」
ノックス「陸橋殺人事件
フィールディング「停まった足音」
ミルン「赤色館の秘密
ベイリイ「フォーチュン氏もの(短編)」
チェスタートン「ブラウン神父もの(短編)」


ディクスン・カーのベスト10(1946年選出)。
ドイル「恐怖の谷」
ルルー「黄色い部屋
バークリー「毒入りチョコレート事件」
クリスティーナイルに死す
ヴァン・ダイン「グリーン家殺人事件」
メイスン「バラの別荘」→「矢の家
クイーン「神の灯」→「チャイナ・オレンジの秘密
P・マクドナルド「気違い(ママ)殺人」→「鑢」
スタウト「腰抜け連盟
セイヤーズ「ナイン・テイラーズ」→「毒」
※ →の右側は訂正後


以上は、九鬼紫郎「探偵小説百科」(金園社)P423-424から。