odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

エラリー・クイーン「犯罪カレンダー(7月〜12月)」(ハヤカワポケットミステリ) なじみのない祝日・記念日からアメリカの世相を読みとろう。

 続いて下半期。こういう小説の面白いのは作者の無意識に書いた世相。これを読むと、1952年にはグリニッジヴィレッジはすでに芸術家のたむろする一画で、プロレスのTV中継が評判になっていた(ニューヨークだとゴージャス・ジョージとアントニオ・ロッカが人気者)、ハロウィーンの仮装は町中では人の注目を浴びることだった、タクシーで運転席と後部座席の間はガラスで仕切られていた、書かれた時代にはニューヨークでビリケンが知られていた、などがわかる。それを知ってどうなる、というわけではないけど。

1 堕落した天使 (The Fallen Angel) ・・・ 製薬会社の社長宅は19世紀風で壁のいたるところに怪物の首(石造)がはめ込んである。あるとき、一つが落下して当主で会社社長で新婚の夫が危うく事故にあう。そこでエラリーに調査を依頼したところ、深夜に銃声がして社長が撃たれている。若い妻は社長の弟で芸術家と不倫の最中、社長の秘書も妻に懸想していて、いずれも自分が犯人だと自首する。一方、弟の芸術家はその夜から行方不明。さてだれが犯人でしょう。当然のことながら、7月は独立記念日(7月4日)が重要なイヴェント。

2 針の目 (The Needle's Eye) ・・・ 引退した冒険家エリック・エリクソンがエラリーを島に招待する。ひとつは、キャプテン・キッドの宝を見つけたいのと(エリックは一笑に付す)、ひとつはエリックの姪の結婚がひどく危険に見えるので監視してほしいということ。島には姪の夫とその父、そして頑迷な番人がいる。エラリーが秘宝の謎を解き、宝を発見した未明、突然の銃声。塔の最上階でエリックが銃殺されていた。さて誰が犯人でしょう。宝探しと殺人、うん、クイーン版の「黄金虫」。ホームズ譚にしてもよいような作。設定は古いけど。

3 三つのR (The Three R's) ・・・ ミズーリ州バーロウ大学の学長がエラリーを招待する。ポオ研究家にして作家のチップ教授が行方不明。居合わせたほかの教授と一緒に彼の研究室を開けると、血痕が残っている。死後1か月後に投函された手紙、ポオの稀覯本が見つかり、チップ教授の別荘には古すぎる死体が発見される。極めつけはチップ教授の書いた探偵小説は現実の事件そっくりそのままであった。さて誰が犯人でしょう。ここではレーバーデイ(9月第1日曜日)が舞台。本格探偵小説は困難になったのだなあ。ところで、キリスト教の教義は「信(フェイス)・望(ホープ)・愛(チャリティ)」なんだって。同じタイトルの短編があったなあ。それに「愛」はチャリティで、ラブじゃないのか!これは知らなかった。

4 殺された猫 (The Dead Cat) ・・・ 10月31日はハロウィーン。猫の仮装をしてホテルにお越しくださいと招待状が届く。そこは真っ暗な部屋でみんな黒装束。招待されたのは別に2組の夫婦。イギリス人の夫ジョンは別の夫婦の妻と不倫の真っ最中。唇をかむ妻の妹もきている。さて「殺人ゲーム」をすることになり、不倫中の妻が「殺人鬼」になる。真っ暗な中、ニッキーの指示があり、被害者の悲鳴。明かりをつけると不倫中の夫が刺殺されている。さて、暗闇の中をあるいて殺人を犯したのはだれでしょう。クイーンは猫が好き(ヴァン=ダインは犬が好き)。

5 ものをいう壜 (The Telltale Bottle) ・・・ 11月の感謝祭(サンクス・ギビング・デイ)で、エラリーはネイティブアメリカンの老婆にプレゼントを渡そうとするがつかまらない。転居先のレストランにいって高い白ワインを頼んだら、ウェイターもレジ係りも様子がおかしい。タクシーの中であけるとコカインだった。クイーン警視に頼んでウェイターを確保しようとしたら、すでに殺されていた。さて、だれが犯人でしょう。タクシーの中の会話は、ジーン・ケリーフランク・シナトラの「踊る大紐育」。

6 クリスマスと人形 (The Dauphin's Doll) ・・・ 一生を人形蒐集に捧げた女性のコレクションがニューヨークの百貨店で展示されることになった。目玉は巨大なダイヤモンドを仕込んだアンチックドール。これを狙うと怪盗コーマスから脅迫状が来たと遺産管理の弁護士がクイーン警視を訪れる。おかげでクリスマスの一日を監視にあてた。小さな混乱はあったものの、無事守り抜いた。はずだったが、弁護士が「これは偽物だ」と悲鳴を上げる。さて、衆人環視のなかどうやってダイヤを盗んだのでしょう。サンテッスン「密室殺人傑作選」(ハヤカワポケットミステリ)に収録されている。


 容疑者はたいてい3人。それより多いと、視聴者には訳が分からなくなるからな。3人だと正答率はある程度高くなるし。3回に1回は視聴者が「あたった!」と喜んだほうがよいからねえ。「ギリシャ棺の謎」のように登場人物が多数という仕掛けは小説にしか使えない。もとがラジオドラマシナリオでこういう特徴があるから、読みなれている人にはわかりやすいのではないかしら。それでも、あたしはしてやられました。というのも、枕に使ったトリビアを見つけるのに忙しかったもので。「ミステリの鬼」のような読み方ができなくてすみません。


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