odd_hatchの読書ノート

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エラリー・クイーン「犯罪カレンダー(1月〜6月)」(ハヤカワポケットミステリ)

 初出は1952年。もとはラジオドラマのシナリオで、のちに小説に改作されてEQMMエラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジンの略)に連載された。カレンダーとあるのは、アメリカの毎月のできごとを舞台にしているから。

1 双面神クラブの秘密 (The Inner Circle) ・・・ 元旦のパーティ。大学の卒業生で作るクラブ。金持ちが集まってファンドを作っていた。最後の生き残りが総取りになるというルール。去年4人が死去して、あとは3人。うち二人は秘密クラブのことを知らないのだが、秘密クラブの共通点は名前にあるという。さて、だれでしょう。んなもん、アメリカの教育事情に詳しくなければ解けんわい、プンプン。双面神をジェイナスと訳しているが、ヤヌスのほうがこの国ではなじみがあるのでは。

2 大統領の5セント貨 (The President's Half Disme) ・・・ ジョージ・ワシントンが妻の急病を介抱してくれた農場に、剣と貨幣を記念に植えた。それから150年。農場の持ち主は急に入用になった金のために、それらを愛好家に売ることを決めたが、埋めた場所はわからない。どこに植えたでしょう。んなもん、アメリカの歴史を知らないと解けんわい、プンプン。珍しい歴史ミステリー。アメリカだとこれ以上古い時代を設定できないからなあ。で、2月21日はワシントンの誕生日。

3 マイケル・マグーンの凶月(The Ides of Michael Magoon) ・・・ 3月15日は確定申告の締切日(この国もそうだよな)。私立探偵マイクは泣きべそをかいてエラリーを訪れる。自分の確定申告の書類一式が盗まれたというのだ。彼の主な依頼人は富豪の未亡人で、オールドミスの娘は万引き癖をもっている。マイクはその後始末をして安定収入を得ていた。さて、マイクのオフィスに行くと、女秘書は殺されているわ、富豪の未亡人には恐喝の手紙が届いているわ。容疑は私立探偵と一緒にオフィスを間借りしている自称芸術家に、競馬のノミやに。さて、犯人はだれでしょう。怪盗ニックにもふさわしい事件。

4 皇帝のダイス (The Emperor's Dice) ・・・ クイーン警視の昔なじみの家を訪問することになった。その家では10年前に当主が銃器室で射殺され、2個のいかさまダイスを握っていた。犯人の行方は要として知れず、葬儀社と医院をそれぞれ経営している兄弟に気のふれた妹が嵐の夜に出迎える。まるで、現代版の「アッシャー家の崩壊」だ。で、4月は何の月? 最後の一行で明かされるというのはクイーンのいつもの、そして会心の手。

5 ゲティズバーグのラッパ(The Gettysburg Bugle) ・・・ 5月30日はメモリアルデイ(兵役中に亡くなった米国の男女を追悼する日。最初は南北戦争の戦死者追悼式。のちに5月最終日曜日に変更したとのこと)。その盛大な祭りをゲティズバーグで行う。この村には南北戦争の生き残りが3人いて、当時見つけた宝を相続することに決めていた。去年、その一人が死に、今朝もう一人が脳溢血、そして儀式の最中に最後の一人がラッパに詰めてあった毒薬で死んだ。さて誰が殺したのでしょう。エラリーが周囲から隔絶した場所で謎に合うのは「ガラスの村」「第八の日」で、昔の宝ものを探すのは「真鍮の家」。あと、生き残りの最高齢が97歳というから、1940年ころの話になる。

6 くすり指の秘密 (The Medical Finger) ・・・ 美しい姉と地味な妹。妹が懸想していた証券会社社員と姉は結婚することになった(ジューン・ブライドに憧れていたので)。しかし、姉には粗暴な男も求婚していたが、姉のフィアンセに手ひどく殴られる。そして、結婚式の当日、粗暴な男を介添え人にして式は行われたが、姉は指輪に仕込まれた毒で殺された。その直前には、介添え人が指輪を忘れ、妹がありかを示すという異様な事件もあったのである。さて、どうやったのでしょう。黒岩涙香「無惨」と同様、論理的な推理と足を使った堅実な捜査が拮抗して、同じ結論に達する。


 普段の長編と異なるのは、エラリーのそばにはニッキー・ポーターがときに世話女房のように、ときにマンハントで誘惑するようにいること。エラリーにはその気はないのに、ニッキーは妻のような気分でいる。ここらへんがハンフリー・ボガードの私立探偵と異なるところで、ボギーは事件の行く先々で女性に誘惑され挑発されるのだけど、たいていは禁欲を貫記、独身のまま。エラリーの絶対成就しない愛を描くのと、ボギーのように行く先々でアヴァンチュールに出会うのとどちらが観衆の興味を引くのだろうか。探偵の場合、あるいは映画の場合は後者になるのかな。エラリーを演じた俳優は名前を知られていないが、ボギーの役名は知らなくても彼の主演映画は今でもファンがいる(「マルタの鷹」より「三つ数えろ」のほうがよいな、うん)。