いつともしれない遥か未来。それともむかしむかしか。主人公は、ビリィ・アレグロ・ラトロデクトス・ナルセ。銀河をまたにかけるその名を知らぬ者のいない大盗賊。一人で行動するのを常として、あいぼうは高速宇宙船「ブラック・ウィドウ」。そこにつまれた妙に人間くさいコンピューター「タロウ」。ふところにしのぶのは、最初の冒険で訪れた密林でであったテレパシー能力を持つ蛇状生物「ダイジャ」。これらひとくせもふたくせもある連中といっしょに、今度はどんな冒険をしでかそうか。
盗賊というも、たいがいは人の依頼で盗みをはたらく。それもとびきりの難題。と同時に、依頼人はなぜそんな難しいことを頼むのか、その理由も考えて行動しなければならない。前も後ろも敵と裏切り者ばかりで、ホント、クソの世界だぜ、と思いながらも、ビリイはたのしそう。
双頭の毒蛇 ・・・ 人殺しもする盗賊と酒を飲んでいるうちに泥酔したビリイは、その国の王女がもつ宝石を盗むことを約束させられる。宝石は王女のへそに仕込まれていて、その所有者だけが王族の継承権を持つのだ。王女によって幽閉されたダンサーの敵を取ってくれという依頼も受けて、ビリイは大活躍。終盤の大見得は、それこそ18世紀を舞台にした冒険映画の一場面にそっくり(そんな映画があるかどうかは知らないけど)。上記のようにダイジャとの邂逅がある。
アンドロイド&ロイド ・・・ アンドロイドを製造して輸出しているメーカーの社長が娘が今度の新発売のアンドロイドと駆け落ちしたので、回収してくれと依頼する。見た目にはアンドロイドと人間のみわけはつかない。ビリイが情報を追っていくと、いるはずの娘はいない。かわりにそっくりのアンドロイドがいるだけ。オリジナルとコピーには違いがないという1980年代によく言われた議論を思い出したり、「ルパン三世」の映画第1作を思い出したり。
覆面条例 ・・・ その国の独裁者は国民全員に覆面をかぶれという命令を出した。以来8年が経過。この独裁者に反対する勢力が、独裁者の覆面を取って素顔を見せろと依頼する。どうにか忍び込むと、そこには独裁者の絞殺死体があり、反対勢力のクーデターが成功した。新しい政府首脳は独裁者の息子。ビリイは逮捕されそうになって・・・
野獣教程 ・・・ シュルギという姿を見せない主人が、6人の盗賊を招いて、この邸から「レゲラ王女の涙」なる宝石を盗むコンテストを行う。逃げれば名声が地に落ち、屋敷には盗難防止装置と殺人アンドロイドがうようよ。さっそく3人が殺され、宝石のありかのヒントはもらってもどこにあるかは要と知れない。屋敷が殺人機械になって、招待者を殺しまくるというのがみそ。石森章太郎「009ノ1」にあった。
メイド・イン・ジャパン ・・・ ある街で、ビリイは役者をすることになった。初日の稽古から受難つづき(大道具が倒れるわ、ライトが天井から落ちるわ)。無頼漢に襲撃をうけたものだから、あとをつけるとその町の賭博王の店。そこで聞き出したのは、自分を撮影するロボットが四六時中、ついてくるということ。いったいビリイを役者にしたのはなぜ? まあ広義の舞台もの探偵小説。
顔のない道化師 ・・・ その街では、ビリイの行く先々でトラブル続き。逃げ込んだ先の劇場で顔のない剣士と戦うはめになる。逃げ切ると、今度は、町の有力者に「顔のなかの顔」なるものを秘境の村アナルカンから盗めと依頼される。異様な村の寺社には老人が待っていて「顔のなかの顔」をビリイに渡すとともに、消滅した。寺を出たビリイを待っていたのは有力者にシュルギたち。彼らは「顔のなかの顔」を持つことで世界を支配できると信じている。そこでビリイのとった行動は。
1980年の作。こうやってまとめたように、探偵小説で、冒険小説で、SFで、古い伝奇小説で、ポルノの香味も効いていて、という具合に趣向は盛りだくさん。あんまり頭をこねらせないで、物語を読むことをそのまま楽しむ。世界を変貌することはないけど、世界の憂いを忘れる15分間を提供してくれる。これもまた小説の効用。