odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

「都筑道夫スリラーハウス」(角川文庫)

 1979年初出のショートショート集。文庫になったのは1984年。
 安定の品質。アイデアも、落ちも、文章も。どの一編でも付け足しがいらないくらいに練られている。名人芸。

 物語の主人公の多くは、著者とおなじ50歳前後。暮らしに不満はないが、なんとなく物足りない。それを埋めるための、町に出て人々とあう。そうすると、誰かがやってきて、昔の因縁を思い出す。誰かは友人だったり、別れた異性だったり、死んだ連中だったり、行きずりの若い男女だったり。ともあれ、そういう今の暮らしの交友関係にない人たちがかかわってきて、それが主人公らの過去のトラウマを引き起こす。それが、現実と幻想と妄想の区別をなくしていって、自分の<実存>の根拠をなくしていくのだよね。この本に収録されているショートショートでは、ふしぎや恐怖は、本人の深層心理の中にある。自分のなかの怪物をみつけることが、たまらなく恐ろしい。そういう話が多かった。
 MRジェイムズ「銅版画」のパスティーシュが2編ある。本来は動くはずのない銅版画、焼き物、油絵の絵が動くのが怖い。これらは人為で作ったもので、形状から表面加工まで人間の意図が徹底している。そこに不可解なことが起きるのは、機械が人間に復讐する、機械が意思をもって自律的になる恐怖を現したものだろう。弾きてのいないピアノが音を鳴らす、放送を終えた時刻にテレビモニターに見たことのない番組が放送される、人形が動き出したり髪を伸ばしたり。このようなヴァリエーションも機械の復讐みたいなものかなあ。
 ショートショートにしては長めの「音楽コレクター」は「未来警察殺人課」シリーズの前駆かスピンアウトか。同じ設定の話。ただ主人公は「星野」と名付けられていない名無し。
 新釈おとぎ話の「猿かに合戦」「浦島」は、「フォークロスコープ日本」(集英社文庫)の「おかしな民話へのスコープ」に収録されている。1974年初出の「フォークロスコープ日本」(集英社文庫)にはおとぎ話の現代解釈をした短編が9本載っていて、どうしてそのうち二編だけが別に取られたのかはわからない。