odd_hatchの読書ノート

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ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-3

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)
2016/03/18 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 の続き。



 社会システムや病原菌に対する免疫、技術などの差異がどこから現れたかを検討する。第2部では、環境と生態に関して。
 13000年前にすべての大陸に分布したヒトは、狩猟採集生活と小規模血縁集団であったという点では共通する。そのような生活を13000年継続して現在に至る集団も、小島や高所にまだ残っている。しかし大多数の集団は食料を生産し、家畜を飼育している。狩猟採集から食料生産に移行したのはなぜか、あるいは移行しなかった集団はなぜそのような選択をしたのか。
 そうすると狩猟採集で食料を十分に取得できる場所では食料生産に移行するモチベーションはあまりない。一年を通じて何らかの食料になる野生生物がいて大型動物がいるようなところでは、食料生産にはなかなか移行しなかった。たとえばそれは日本列島で、他の地域では11000年前ころから食料生産が行われてきたが、この列島ではずっと後であるし、近年まで狩猟採集生活をする集団があった。食料生産を行うメリットは、気候変動があっても食料を獲得でき、将来を見据えた備蓄ができる、定住生活が可能になって人口が増加できる、集団が大きくなり分業することで生産性が増す、あたり。そのような食糧生産をするには環境の側に条件があり、重要なのは栽培可能な野生種が自生していること。食用可能な部分を持っている、毒を持っていない、撒種から収穫まで時間が短い、種をまき散らさないなどの条件を満たす野生種があることが必須。アメリカ大陸には栽培可能な野生種がきわめて少なかったので、食料生産は遅れた。また食料生産が容易な土地があることも必要で、高地や湿地、乾燥地は不適。ニューギニアやオーストラリアで食料生産が行われなかったのは、土地と環境に問題があるため。食料生産が始まったのは、肥沃三日月地帯やエジプト、中国などであり(世界で8か所しかない)、以上の条件を満たしていた。
 家畜を持つことのメリットは、食料生産(深く耕せるので収量が増える)に優位であり、たんぱく質の供給源であり、荷物や人の移動を早くし遠くまで行くことができるようにすること。家畜になるためには、いくつかの条件があり、餌に選り好みがなく、成長速度が速く、繁殖管理が容易で、穏やかな気性で、パニックになりにくく、疾病ある集団をつくらず、集団生活が可能である程度の大きさを持っていることが必要になる。そのような大型動物は種類が少なく、これまでに家畜化できたのは13種類。そのうち5種類(牛、馬、羊、山羊、豚)が世界中に普及した。この5種はユーラシアが原産で、ほかの大陸由来のものは普及していない。アフリカやアメリカにはそのような大型動物はいなかったし、ニューギニアやオーストラリアではヒトの移住とともに大型動物は絶滅していて、家畜化に至らなかった。
 食料生産や家畜化は数世代の交雑で達成されるわけではない。植物の野生種は収量は少なく、野生の動物はヒトになつかない。ときに疫病や災害で絶滅することもある。食料生産にかかわった人々は文字をもっていなかったし、抽象語を持っていなかったから彼らの考えは直接はわからないが、自然の事物についてはわれわれ以上の知識と判断する力を持っていたに違いない。そのうえで、飢餓や集団の分裂などを克服しながら育種する粘り強さをもっていた。彼らが、現代の文明人と比べて劣るところはない。
 さて、野生種の育種により食料生産と家畜化を達成したところは少ない。しかしそれはすぐさま伝搬していく。大陸ではと他馬による移動。海洋では丸木船。それを駆使して、ユーラシアからアフリカ、太平洋諸島部に2〜3000年で伝わる。これは早い。もちろん人が移住したわけでなく、食料生産や家畜を知った集団が近隣の集団に種や家畜と一緒に技術を教え、それが伝搬していったケースもある。そのときに、ユーラシアは東西に長いというのがメリットになった。アフリカやアメリカのような南北に長い大陸では、気候帯が変わり、日照時間や降雨量などが変動していた。植物や家畜はそれに対応するのが困難だった。しかしユーラシアの東西に長い大陸では、緯度が変わらない地域が広大であり、その種の問題が起きなかった。アフリカの砂漠や赤道付近の風土病、アメリカ大陸の半ばにある狭隘な中米地帯とその南北にある高山地帯は伝搬を妨げた。ユーラシアにもそのような地形はあったが、迂回できる広大な土地があった。このような大陸の形状が、食料生産と家畜の伝搬の速度を買えたのである。
 そうやって食料生産と家畜が伝搬し、地域ごとに適応すると、違いが生まれてくる。集団ごとの競争があって、さらに伝搬と発達を促したと考えてよい。アメリカやアフリカでは大きな集団が形成されなかったり、集団が孤立しがちで競争や模倣が生まれなかった。ニューギニアやオーストラリアでも同様。

  


2016/03/22 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 下」(草思社文庫)-1
2016/03/23 ジャレド・ダイヤモンド「鉄・病原菌・銃 下」(草思社文庫)-2 に続く。