2016/04/04 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-1
2016/04/05 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-2
2016/04/06 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-3 の続き。
表層の物語は探偵小説の枠組みを借りている。
それに沿って、レジュメをつくると、
舞台になる北イタリアの名無しの修道院について。ここには、修道僧約60人と、たぶん同数くらいの雑務を担当する人々がいる。西ヨーロッパの修道院の中では大きい方だろう(今野國雄「修道院」岩波新書など)。修道院は歴史のあるところで、皇帝と教皇の使節団が会談を行う場所にも選ばれている。皇帝から派遣されたウィリアムとその従者アドソは修道院長に内部で起きている事件の調査を依頼される。
(修道院の平面図)
事件は次のように推移。
1.挿絵師のアデルモが嵐の夜に、塔から墜落死した。その塔には夜中には入ることができず、墜落したと思われる窓は閉じられていた。
2.翻訳家ヴェナンツィオが豚の血を集めた巨大な甕に投げ込まれていた。死因は不明。
3.文書館長補佐ベレンガーリオが行方不明になったのち、水浴槽に沈んでいるのが発見された。
・ヴェナンツィオとベレンガーリオの死体に共通していたのは、利き手の指先と舌先が黒ずんでいたこと。死体の状況から毒物を飲んだらしいとわかる。またこの3人には、同性愛のうわさがあった。
4.上記の死者3名が死の直前に読んでいたと思われる本は文書館から無くなっていたが、薬草院で発見される。ウィリアムにそのことを報告した薬草係のセヴェリーノが薬草院で撲殺された。
5.修道院に到着した異端審問官は、黒魔術を行おうとしたサルヴァトーレと村の娘を拘束する。そのあと、厨房係のレミージョが異端嫌疑で逮捕される。この三人は異端審問官たちの手でよそに運ばれる。
6.早朝の聖務中、文書館長マラキーアが薬物中毒症状を示して死亡する。ヴェナンツィオやベレンガーリオと同じく舌先と指先が黒ずんでいた。
この事件に遭遇したある修道士は、ヨハネの黙示録の記載とおりに起きているという。ハルマゲドンのラッパが鳴るごとに怒る天変地異と同じ象徴が事件で繰り返される。嵐、血、洪水、サソリなどなど。
この修道院は長年大量の文書の所蔵しているところから、文書館長の権限はきわめて大きい。また他に漏らせない種々の秘密(所蔵文書の内容とか配架方法とか)をもっていて、その知識を持つことが権威の源泉になっている。そのため文書館長を務めたものが修道院長になるきまりがあった。およそ50年前に文書館長をだれが継ぐかで派閥抗争があり、ある人物が館長になった(事件時にはすでに死亡)。奇妙なのはそのときの館長は「失書症」といわれていて、現在の官庁であるマラキーアが補佐していた。選出の過程に疑義があって、最長老のアリナルドは憤っており、また盲目のホルヘも何かの事情で館長の道を閉ざされている。
現在の修道院長は外部から呼ばれたもので文書館の秘密をすべて知っているわけではない。古参の修道僧で、文書館の秘密に近いものは院長の権威をそれほど高くは認めていない。そのかわり、他の修道院や教皇、皇帝などと交渉する術に優れ、修道院の財を増やすことに成功して、地位を保っていた。
文書館はごく一部の修道士の管理下にあるので、一般の写字生、挿絵師、翻訳家では中に入ることができない。禁断の、とても内容が面白いらしい書物が中に所蔵されていて、研究熱心な修道士は本を読むことを熱望する。そのためには権威の階梯を登らなければならないが、競争から振り落とされたものは読むことができない。そこでさまざまな工夫を凝らして(ときに徳に背くことをしてでも)文書館に入ろうとしていた。
上記の事件が起こるにつれて、文書館長の座を獲得する陰謀が修道院内で起きている様子がうかがわれる。長らく館長がイタリア人以外であったので、イタリア人の修道士は不満を持っているのだろう。
ウィリアムはこのような推理を披露し、修道院長に文書館に入ることを要求する。しかし院長は拒否し、会談に同席する異端審問官に捜査をゆだねることにする。修道士の怪死が連続するまではもみ消しも可能であるがだろうが、修道士同士のスキャンダルに加え、異端容疑のあるものを収容していたことは院長の管理責任を問われることであり、一介の修道士に事件を任せるわけにはいかなくなったから(異端審問官に捜査権限をゆだねることで教皇に良い顔をしておくという打算もあった)。異端審問官は、異端と異教の痕跡を発見し、かれらに事件の責任をかぶせることで収拾しようとする。ウィリアムは異議をとなえるが、そのことで自身の立場を危うくする(修道院に無関係な外部のもののおせっかいで、厄介なもめ事を招いているということで)。
(図書館の平面図)
禁断の文書館に入る道は事件の被害者の残した暗号を解読することでわかる。ウィリアムらが到着した第6日目の夜、文書館の最奥にある通称「アフリカの果て」に入ることが成功する。そこで待っていたのは……。
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この事件の概要は、映画をみておいたほうがわかりやすいかもしれない。中世を再現した映像はみごと。
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2016/04/08 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東京創元社)-2
2016/04/09 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東京創元社)-3 に続く。