odd_hatchの読書ノート

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ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」(新潮社)-2 畢生の大作に書かれた百年を世界史や経済史に照らし合わせて把握しよう。

2016/12/13 ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」(新潮社)-1 1967年 の続き。



 古い新潮社版では全部で約300ページ。作家は章を立てていないが、改ページで分けられているところが19ある。そのために、20の部分にわけることができる。タイトル「百年の孤独」とあるように、20の部分で100年を描いているとすると、ひとつの部分は5年間のできごとといえる。これは実際の記述を見ても、だいたいあたっていると思える。そして11の部分で、マコンドに汽車がやってきて、映画やラジオや蝋管蓄音機や自動車などの文明機器が入り込み、アメリカ人がバナナのプランテーションをつくったとある。だいたいこの時代が1900年と思えばよい。そうすると、「百年の孤独」は1850年から1950年までを扱っているということになる。
 中米の一寒村のできごと。とはいえ、そこから一国の歴史や世界史につながる時間経過をみることができる。それはマコンドという場所の変化やブエンディーア家の家業などからみえてくる。そこに注目すると、以下のように図式化できる。
1.見向きもされなかった不便な土地に、都会から逃れた一家が入植する。背景には低地の農業生産性が限界に来ていて過剰な労働力を受け入れられるのは未墾の土地しかない。それでも入植したのは農業技術の発展があるのだろう。
2.自給自足の家族農業。文明や都市からは隔てられている。この時代は神話的な挿話がたくさんある。
3.文明や都市とつながる交通路ができ、国内の市場に巻き込まれる。ブエンディーア家は交通路を使って移動する人々に家内生産の飴細工を販売して生計を立てる。都市や国家では開発独裁か軍事政権があったのではないか。彼らが農村を収奪する政策を立てたので、地方の豪農などに支援された反国家運動がおこる(「大佐」がかかわったのはそういう運動)。
4.反国家運動を殲滅した軍事国家に、グローバル資本主義が到来。アメリカ資本がマコンドに入ってバナナのプランテーション経営を始める。賃労働を求めてたくさんの人々が集まる。もともとの入植者は彼ら向けの商業や産業で経済発展。
5.一転してグローバル資本がマコンドから退去。小説では長雨と旱魃プランテーションが壊滅したことになっている。自分としては西洋の不況や世界大戦でグローバル資本が別の場所に移動したのだろうと推測。実際、このような経緯をたどって中米のプランテーション農業は成長し壊滅したのだった。
6.グローバル資本は現地に資産を残さないから、撤退後に残った人たちが事業に投資する資本を持っていなかった。なので、マコンド(と中南米)では長い経済停滞が続く。ストやデモが頻発したし、一方で軍事政権や独裁政権では民主化運動を弾圧した。それもあって、海外からの投資も少なかった。
(7.国内外から見捨てられた土地になり、人口流出。ここは小説内だけのできごと。)
 この小説ではここまで。中南米では、政治的な不安定と国内経済の小規模さや国民の低い貯蓄性向などがあって、経済成長は短期で、不安定だった。継続的な経済発展は21世紀にはいってから。
 では、この小説はグローバル資本主義で収奪される中南米の悲哀や悲惨を抉り出し、西洋(とアメリカ)を非難するというとさに非ず。あるいはグローバル資本の支援を受けた軍事政権、独裁政権の打倒をめざしているかというとさに非ず。もちろんマコンドもブエンディーア家も住民もグローバル資本や軍事政権に翻弄されるわけだけど、彼らは無抵抗で従順であったわけではない。民族革命をもくろむ「大佐」をひそかに応援したり、バナナ会社の経営に不満をもってストやデモで対抗したり、飴細工や家畜を販売して利益を上げたり、町に流れ込む人々に無償の食事を提供したり。西洋的な自覚を持って政治参加する「市民」は一人もいなくとも、国家に抗する社会や人々でもあるわけだ。まあ、彼らは破天荒で破壊的な行為を行ったりする。科学技術や文明を魔術と勘違いして大量購入するとか、集めた紙幣を家中に貼り付けるとか、カーニバルやお祭りをしょっちゅう開いて富を蕩尽するとか。西洋の功利主義や資本主義からは説明つかない行為。これにも同じく経済活動にまい進して富を蓄積する「市民」からほど遠いのだけど、これもまた近代化よりまえの「遅れた」地域であったヨーロッパの伝統に近しい行為に見える。比較されることのおおいラブレー「ガルガンチョワ物語」の小説世界にそっくり。
 そのうえで、もっと土着で呪術的な文化や考えもながれている。マコンドを定期的に訪れるジプシー(ママ)の一行がそれ。彼らは実在のロマの系譜であるというより、アラビアやバビロニアの古い文化の衣鉢を継ぐ人々。科学と魔術をマコンドにもたらし、この街が変化するきっかけをもたらす。彼らの代表がメルキアデス(アルキメデスアナグラム)。この年齢不詳にして、何度も生き返る稀代の魔術師。彼らの知恵と生活がマコンドの社会を規定する。
 という具合に、3つの社会(西洋―中南米―呪術的共同体)がある。そのせめぎあいというか影響しあいが小説を動かす。こういうせめぎあいのある社会は近代化や西洋化で失われていて、20世紀以降の小説にはめったに見られないので、この小説はとても新鮮。


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2016/12/9 ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」(新潮社)-3 1967年
2016/12/08 ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」(新潮社)-4 1967年
2016/12/07 ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」(新潮社)-5 1967年