odd_hatchの読書ノート

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ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」(新潮社)-1 畢生の大作に取りかかる前に登場人物の系図と出入りを把握しよう。

 1967年初出の畢生の大作にして傑作。読んでいる間、小説の世界がまるで現実のようにあらわれ(しかし描写はほとんどないのに)、読者の物理現実のほうが色あせ、マコンドと呼ばれる土地のおよそ百年の歴史と100人を超えると思われる人物によい、続きを知りたくてページを繰る手が止まらず、最後のページに到着するのをできるだけ遅くしたいという稀有な体験をもたらす。そのような小説に人生でいったい何冊出会うことができたかとおもいだすと、この大作にして傑作を手にすることは稀有の僥倖に他ならないと確信する。およそ四半世紀ぶりの再読でも、色あせず、いやむしろ喜びと華やぎのうちに本を読み進めることになった。

 しかし、この小説を読み進めるのが困難であると思う人もいるだろうと思い、その理由は家族に生まれる子供は開祖の名前を引き継ぐ風習のために、ほとんど同じ名前の異なる人物が繰り返し登場するところにある。いったい何人の「ホセ・アルカディオ」と「アウレリャーノ」がいたことか。そのうえ、家刀自のウルスラが「アウレリャーノの名乗るものは内向的だが頭がいい。一方、ホセ・アルカディオを名乗るものは衝動的で度胸はいいが、悲劇の影がつきまとう」(P142)と述懐するように、彼らの性格や行動性向は似たところがあって、区別するのが近代市民には難しい。エラそうなことをいったが、自分が読んだときには、1984年出版の北宋社編集部「カリブの龍巻」(北宋社)についていた系図と登場人物の出入りの表を照らし合わせて、いったいどの「アウレリャーノ」であるか「ホセ・アルカディオ」であるかを確認していたのだった。1970年代の新潮社版にはこのような付録はなく、これから読みたいという読者には以下の2つの図版が参考になるだろう。


 21世紀に改版された全集版には、付録でついているらしい。この図よりも人数は少ないもよう。
 そのうえで、マコンドに入植したブエンディーア家の系譜から主要な人物を抜書きし、彼らに起きた重要な出来事をメモしておくことにしよう。これだけ多彩な人物が登場し、誕生から死までを詳述されているとなると、人物はなにをしたかというよりもいつ生まれどのように死んだかの方で記憶することになる。


第一世代
ホセ・アルカディオ・ブエンディーア: 最初の者。森を経めぐってマコンドに入植。ジプシー(メルキアデス)に導かれ、錬金術にいかれ、狂気に入る。亡くなった時、空から花が降りカーペットのようになる。
ウルスラ: 家刀自。ホセ・アルカディオ・ブエンディーアの妻。若い時に家から逃げ出し、文明社会との道を開く。推定125-120歳で幼児並みに小さくなって死去。


第二世代
ホセ・アルカディオ: 性の英雄。レベーカと結婚したがピラル・テルネーラとの間に子供をもうける。政府軍と自由派の抗争に巻き込まれ、政府軍に銃殺される。ピラル・テルネーラはアウレリャーノの子も産む。
アウレリャーノ: 大佐。レメディオスと結婚したのち、反政府軍に入り、32回の叛乱、17人の女に17人の子供を産ませる。のちにマコンドに引っこんで金の小魚の細工に凝る。サーカスの来た日に、ホセ・アルカディオ・ブエンディーアの亡くなった栗の木の下で息絶える。
アマランタ: 黒い包帯。イタリア人ピストロ・クレスピと婚約するが破棄。片手を暖炉で火傷し、終生包帯をつけている。経帷子を縫い終えた日に予告通り死去。
レベーカ: もらわれっ子。コトコトなる骨を持ち、土や泥を食べる。ホセ・アルカディオと結婚。夫の死後、廃墟に閉じこもり、だれからも忘れられる。


第三世代
ホセ・アルカディオ: 第2世代ホセ・アルカディオの息子。若き暴君。サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダと結婚。
アウレリャーノ・ホセ: 第2世代アウレリャーノの息子。暗殺。


第四世代
メディオス: 第3世代ホセ・アルカディオの娘。小町娘。絶世の美人。かぐわしい体臭で男を魅了。シーツをもったまま空に昇天。
ホセ・アルカディオ・セグンド: 第3世代ホセ・アルカディオの息子。闘鶏に熱中。バナナ会社のデモやストを扇動。メルキアデスの部屋に逼塞して正気を失う。
アウレリャーノ・セグンド: 第3世代ホセ・アルカディオの息子。ペトラ・コテスを愛人にしながら、カーニバルの女王フェルナンダ・デル・カルピオと結婚。家畜が増えて大儲けする。長雨と旱魃で資産を失い、ウルスラ(家刀自)の隠した財宝を見つけるために敷地を掘り返す。


第五世代
レナータ・レメディオス: アウレリャーノ・セグンドとフェルナンダ・デル・カルピオの娘。通称メメ。マウリシオ・バビロニアとの間に私生児アウレリャーノを生み、ヨーロッパの修道院に放擲する。
ホセ・アルカディオ: 同じく息子。パリで神学をまなぶ。帰国後、子供らを収容し、水死させられる。
アマランタ・ウルスラ: 同じく次女。ブリュッセルに留学して富豪ガストンと結婚。マコンドに戻り、私生児アウレリャーノと官能の王国をつくる。


第六世代
アウレリャーノ: レナータ・レメディオスに生まれた私生児。メルキアデスの部屋にこもり、羊皮紙研究に熱中。


第七世代
アウレリャーノ: アマランタ・ウルスラと第6世代アウレリャーノの息子。豚のしっぽをもって生まれる。


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