35年前にたまたまどこかの古本屋で入手して、それ以後見かけたことがない。珍しい本だと思う。1962年初出。
デビュー以来ずっと図書館か書斎で小説を書いてきたが、閉鎖的で室内的な性格をつくりかえあければならないと思って、海外旅行(および他の国の作家との交流)や若者へのインタビューなどを行うようにした。その記録。当時著者は26-27才。
中身は海外旅行の記録と日本の若者たちへのインタビュー
1.日本青年の中国旅行
3.若いブルガリア
4.ソヴィエトの若者たち
5.パリの学生
中国旅行は1960年5-6月(なので安保闘争の国会前を知らない)。その他は1961年秋。5を除くといずれも招待旅行で、社会主義国のガイドが着き、スケジュールを管理されたもの。なので、背後で起きていること(例えば中国の飢饉とか)には注意が至らない。その上に個人的な体験と述懐に終始している。同時期の海外旅行の記録(小田実「何でも見てやろう」、開高健「声の狩人」「過去と未来の国々」、野上弥生子「私の中国旅行」(岩波新書)など)と比べると皮相で、観察にとぼしく、大した内容ではない。著者のルポは「ヒロシマ・ノート」以降のものを読めばよい。
2.日本の若者たち
毎日グラフに連載された若者たちのインタビュー集。登場したのは、
天皇家の戦後世代 島津貴子さん/樺太ひきあげの相撲界のスター 大鵬/革命こそ世界最大の芸術? 全学連書記長 北小路敏さん/ガン・ブームの中心人物 推理小説作家 大薮春彦さん/若い右翼の声 大日本生産党員 東条武三さん/アメリカ人よりアメリカ的な ミッキー・安川さん/新しいパントマイマー ヨネヤマ・ママコさん/若い女性の職場としてのテレビディレクターの高橋洋子さん/新興宗教が青年を魅惑する創価学会の沼本光史さん/映画『不良少年』に出演した 浅井広さん、藤川浩一さん/少年期アメリカ留学版「まあちゃんこんにちは」の山本祐義さん/闘争中の看護婦野尻昭代さん/アフリカの新しい青年 アーロン・シェリイ・トーレンさん/日本のモダン・ジャズ・ピアニスト 八木正生さん/若い日本人指揮者 NYフィルハーモニー副指揮者 小沢征爾さん/歌舞伎の下積みの青年 中村駒三郎さん/原爆で絶望した者も絶望しなかった者も・・・ 川平貞夫さん・岩永昭男さん/NHKテレビのスター 黒柳徹子さん/下層生活者出身の歌手 アイ・ジョージさん/日本で働く朝鮮の誇りたかき若者 東映球団 張本勲さん/若き原子力科学者夫婦 東海村原子力研究所 近代達男・靖子さん/団地にかこまれた農民たち 岡本富義さん・真嶋誠一さん・正義馨さん/警察官のヒューマニティー 森淳治さん/貧しさからボクサーになった青年バンタム級チャンピオン 山口鉄弥さん
有名人から無名の人まで、右翼から左翼まで、社会的な成功者から不遇にあるものまで、国内にいる人から海外雄飛した人まで。編集部の人もこれだけ幅広い若者とコンタクトをとるのも大変だったろう。具体的な人選は編集部であっても、会いたい人のリクエストは作家の側から出たと思う。そのうえ、インタビューする人もされる人も20代。その人選と職業と状況の多彩さがそのまま日本の縮図になっている。のだとおもう。みな真面目であった、作家の質問に真摯に答え、1980年以降の韜晦や偽悪趣味みたいなのはなくて、すがすがしい後味。
とはいえ、著者のはインタビューではなくて、討論になってしまうし、著者自身ではなく編集部のまとめであるので、臨場感はあっても、深みはない。インタビューされる方も、しっかりした考えを披露できず、手探りで自分の感情を絞り出している感じ。分析的で論理的な話がほとんどないので、同世代には共感できても、すでに青春から遠く離れた自分にはあわない。積極的に探して読むほどのことはないな。
「遅れてきた青年」の後半で主人公の「私」は、テレビ番組をつくることを画策する。同時代の若者へのインタビューをすることで時代の象徴が浮かび上がるという目論見。それは著者の想像力の内にあるものではなくて、「遅れてきた青年」を書いているとき(1961年)に著者自身が実行していたことだった。