odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

都筑道夫「にぎやかな悪霊たち」(講談社文庫) オカルト評論家出雲耕平に持ち込まれるいろいろな心霊現象の相談をつるかめコンビが右往左往しながら調べる連作。

 オカルト評論家出雲耕平に持ち込まれるいろいろな心霊現象の相談をおれ(鶴来六輔)が右往左往しながら調べる連作。相棒のカメラマンは亀田で、ふたりあわせて「つるかめ」コンビと言われている。ビルには喫茶店ブルブルがあり、アルバイトの由香里ともいろいろあってそっちの仲も大変。おれの年だと、円谷プロ怪奇大作戦」のSRIを思い出させる面々。謎と解決編はあっても、合理的な謎解きにならないのは、探偵小説ではないから。

蝋いろの顔 ・・・ sexの最中に幽霊が出てくるというので、試してみたら実際にでてきた。最近部屋に入れたものはと聞いて、電気スタンドを指さした。このストーリーをいただいちゃって、たがみよしひさが「依頼人から一言」の一編(「かわいい女」)を描いた。

湯気の中から ・・・ 風呂に海坊主みたいな赤ん坊みたいな幽霊が出る、と若い女性が相談にきたので、問題の部屋で風呂に入ってもらうことにした。そのあと、鶴来は女性を自分のマンションに連れてきる。風呂に入っているところに、由香里がやってきて。

黒く細いもの ・・・ 中学生のお嬢さんから母の足元に百足の幽霊が出ると相談が来た。調べに行くと、それは髪の毛で、なんと鶴来に移ってしまった。背後にあるのは、母子家庭になった由来と貧困。凝り固まった情念の当てのない行方。

騒ぐ霊 ・・・ 由香里の従姉の家にポルターガイストがでるというので、女所帯の家に出かけた。そこには女性の霊媒師もいて、競争になってしまう。

女嫌いの女の絵 ・・・ 失踪した画家の最後の作品を部屋に置いておくと、女性が影響を受けるという。借りて部屋に置くと、なるほど絵の女の影響は現れるようだ。画家の行方を調べると、モデルになった女も失踪していた。

幽霊坂マンション ・・・ 幽霊が出るというマンションを格安で借りた画学生、今度はでなくなって家賃をあげられるという。出雲に鶴亀、由香里でマージャンをしたら、でたあ。でもそれきりになったのは幽霊に何かわけでも。

出雲ぎつね ・・・ 狐つきになった少年との面接の最中、出雲に狐が乗り移った。少年の前の母(生みの母)も狐が憑いて亡くなっている。そして翌日、少年の新しい母も殺された。

激写あの世ヌード! ・・・ 戦前からある古い屋敷に最近裸の女の幽霊が出るようになった。「騒ぐ霊」に登場した女霊媒師もして、霊感合戦。このうちには受験勉強中の生徒がいるが部屋にこもって出てこない。

モンロー変化 ・・・ そのカメラで写真を撮ると女性にかぶさるように女の幽霊が写る。どうやらレンズに取りついているらしい。ということで、モンローのポスターで写真を撮ってみた。

男の首 ・・・ 女霊媒師の持ってきたメロンが男の生首に変わった。女霊媒師の持っているブロンズ像も、おれ(鶴来)の顔も男の首に変わった。最近亡くなった男がなにか伝えたがっているらしい。そこで他の霊媒師に未亡人を加えた交霊会を開くことにした。

化けかた教えて ・・・ 自分の死後を夢に見る、ついては夢にでてくる妻に復讐したいから手伝ってくれと頼まれた。妻のところに行くと、それは死んだ夫の幽霊だという。勤め先に電話をすると1年前に退社している。自分が幽霊であることが分からない幽霊。つじつまの合わない話が合理的に解き明かされる快感。これはよいでき(ただし探偵小説的な謎解きではないよ)。

水わり幽霊 ・・・ バーで隣り合わせたイラストレーターが最近見た幽霊の絵を描いた。それは出雲の顔。そこで一同が集まると、由香里の様子がおかしくなる。現代的な怨念を丹念に描く。これも佳品。

人形たちの夜 ・・・ 芥子人形に何かが起こると家には不幸がある。女の人形が女の人形を殺していた、なので調べてくれ、というので、旧家を訪れる。

夜の猫は灰色 ・・・ 14か月前に死んだ猫と同じ猫が家にやってきた。猫の生まれ変わりってあるのでしょうか、ということで猫を借りることにしたら、猫が女性に変身した。

離魂病診断書 ・・・ 風邪をひいて寝込んだ由香里が突然現れて「鶴来と結婚します」といって姿を消した。由香里の姿はほぼ同じ時刻に何カ所かで見られている。もしかして離魂病? ドッペルゲンガーのもう一人に会うと、その人は死ぬというのだが。研究所と喫茶店の面々で由香里を見張ることにする。事件はうちわネタ、耕平は小説の外に行き、チームは解散。お疲れ様でした。


 1975年から77年にかけて連載された短編をまとめて1977年に出版。 
 うまいなあ、と感嘆するのは小説技法において。主要人物の性格付けがはっきりしているから最小限の描写ですみ、ただちにストーリーが始まる。事件が依頼されるまでをできるだけ変えるようにしてあきさせない(オフィスに依頼人が訪問するというパターンを後半になるとさけるようになる)。作者の短編のように、5つくらいの章に分けられていて、章ごとに静と動、説明とアクション、推測と聞き込みなどが交代して、コントラストが明確。冒頭の謎にくわえ最後の章の前で別の謎もでてきて、一気に合理的に解釈される。このあたりの手練れはみごと。一編あたり15分の至福のときを味わえる。
 この短編集は、心霊現象が実在するもうひとつの地球のお話。なので、心霊現象をでバンキングする解決はないし、ときに放置される。謎になるのは、心霊現象を呼び込む、あるいは心霊が関与したがる生身の人間の感情とそのもつれ。だから、犯人を警察に引き渡しておしまいになる話はない。かわりに、心霊とシンクロするくらいの憑き物を落とすこと、隠していた憎悪や愛情に向き合わせることが解決になる。そういう点は、同じ作者の都筑道夫雪崩連太郎幻視行」「雪崩連太郎怨霊行」と同じ。こちらはユーモア・アンド・エロティック編。