odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

都筑道夫「危険冒険大犯罪」(角川文庫)

 単行本の初出は1974年。収録された中短編は記述からすると、もう少し前に書かれたと思う。

俺は切り札 ・・・ ファースト・エイド・エージェンシー主宰の片岡直次郎。今回の依頼は、フランスの大画家ゲクランの描いた「拘束衣を来た狂女」の本物を入手しろという依頼。まずはニセモノを用意しようとするが失敗。でも依頼人の鼻を明かすことができた。今度はゲクランのニセモノをつかって依頼人の裏をかいたが、本物のゴクランは本物の絵を公衆の面前で切り裂いてしまう。本物とニセモノが入り乱れ、区別ができなくなり、今度は絵のモデルが絵を回収したいといってきて、ここでも本人と模写の関係が混乱してくる。というような1980年代に流行った議論はいっさいなく、のんきにみえるが実は凄腕らしい片岡直次郎が金も援助者もない状況で、90%の頭脳と10%の運で危機を脱していく。筋が思いがけない方向にどんどん転がっていくさまが快感。5つの短編連作だけど、さいしょの依頼人はいわくありげの様子だったのに、2つ目が終わったら姿を消すくらい。そのぶん展開のスピードが速くて気持ちよい。ユーモア・ハードボイルドの佳品。

帽子をかぶった猫 ・・・ 犯罪映画やギャング映画にいかれたボンボンが自分でもやってみたくなる。そこで金にあかせて子分を集め、銀行強盗や美術品の盗難を行う。でも、一向に新聞記事にならない。そこで次はもっと危険で大仕掛けなことを考える。下の子分はおおよわり。「名探偵もどき」「捕物帳もどき」のプロトタイプ。でもこっちが違うのは、最後の1ページ。地と図が入れ替わって、役割が入れ替わって、悪の基準があいまいになる。

肩がわり屋 ・・・ モンスタークレーマー並みの難癖をつけて営業部長(社長の娘が奥さん)に会った肩がわり屋、ゆすりを始末しましょうという。されここから男が行うゆすりやへのコン・ゲーム。脈絡のない行動と依頼内容、そして都内を古ぼけたシトロエンで駆け回る。それが最後にまとまる快感。犯罪すれすれで、しかし被害者(なんてものがいるのかもわからない)からは決して訴えられないというスマートさ。手に入れたのは10万円×2足す5万円だが、書かれた当時の大卒初任給は1-2万円のころだから結構実入りはよい。

ああ、タフガイー! ・・・ サンフランシスコの私立探偵がぐれた息子が東京にいるらしいので、連れ戻してほしいと依頼される。到着すると、ヨーコが通訳兼助手になってトーキョーの街を探し回る。ヒッピー、ゼンガクレン、空月堂などのことばからすると1967-9年のころか。「三重露出」のあとで「キリオン・スレイ」の前。トーキョーにガイジンがいるのが珍しいことではなくなった。

ギャング予備校 ・・・ 「悪意銀行」「紙の罠」で活躍した近藤利夫、土方庸三コンビ。名声が上がったのか、資産家の爺さんに息子をどうにかしてくれと依頼される。冒険スパイアクションにはまって冒険をしたくてたまらない。君たちの活動に加えて、どうにか更生させてほしい。期間はとりあえず一か月、手付に二百万円、報酬は一人当たり二百万円でどうだ。というわけで一郎青年を仲間に加えて、手がけるのは数年前に銀行強盗で二千万円を盗んで、そのままどこかに隠したという男。出所するから、隠し場所をつかまえて上前を撥ねようという魂胆。そこで男を待つ女のアパートに行ったら先客がいて、拳銃を突き付けられた。このあと、窮地を脱する(一郎の持ち込んだマニアックな道具が役に立つ)のだが、同じことを考えている連中がたくさんいて、男に追いつくどころか、行く先々で命をねらわれる。立った数日なのに数回縄で縛られる羽目になり、拳銃を突き付けられることそれ以上。でもそのたびに、「アリエネー」な展開で逃げ切る。ここら辺は連続活劇無声映画(いやアニメだ)を見ている感じ。一郎くんも冒険が収支に会わないのを見て、改心した模様、よかったよかった。
 近藤と土方のコンビは仲がいいようでいて、互いに出し抜いて先に益をとろうとするのがおかしい。視点はおもに近藤に置いているので、土方の得体のしれなさが不気味。親の意向に背く息子を更生させてくれというのは、のちのものぐさ太郎シリーズであるが、太郎は働きたくないので、近藤と土方に預けるわけにはいかない。事務所を構える片岡直次郎に頼んだのはもっともなことだ。


 片岡直次郎と近藤・土方コンビのシリーズキャラクターの登場する中編を前後にして、間にノンシリーズの短編を挟む。この構成がよい。ユーモアハードボイルドは作者のお得意なジャンル。一時間ちょっとの時間つぶし(たとえば飛行機や特急に乗っている間とか)にはもってこい。まあ、書かれて50年にもなりそうだというと、風景や風俗がずいぶん21世紀と違っていて、ある程度の年齢でないと楽しめないか。たとえば東北自動車道はなくて、東京から宇都宮までは国道を通らなければならないとか、外出中に電話を受けるためにはサービス会社を頼むとか。
 どうでもいいことで、ある程度の年齢以上でないとわからないネタ。「あっと驚く為五郎」は先代広沢虎造のナニワプシ、「清水次郎長伝」のうち、「本座村の為五郎」の一節だとのこと。驚いたな、もう。

危険冒険大犯罪 (角川文庫 (5699))

危険冒険大犯罪 (角川文庫 (5699))