odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「少年小説コレクション3」(本の雑誌社)

 1970年前後のジュブナイルのうち、本格推理の系統にあるシリーズをまとめる。

蜃気楼博士
 第一の挑戦 蜃気楼博士 1969.05-11 ・・・ 久保寺俊作はアメリカでドクター・クボとして有名になったマジシャン。その見事さから、ドクター・ミラージ、すなわち蜃気楼博士の二つ名を得たのであった。帰国後は引退しているが、心霊術のデバンキングで高名になった。ある霊媒が遠隔殺人をするといいだす。実際、衆人環視で箱に閉じこもった霊媒は、いっしょにもちこんだ短刀やライフルで殺人を起こしたのであった。中学二年の次郎少年は、雑誌記者の兄・昭一といっしょに久保寺博士に従い、不可解な遠隔殺人4つの謎を追う。カーの中期の長編にあるような不可解犯罪テーマ。霊媒や心霊術の不可解さがいい味をだしていて、謎解きもみごと。大人向きにすると、この国の風俗から浮き上がってしまうが、ジュブナイルだと瑕疵にはならず、むしろチャームになる。
 第二の挑戦 百人一首のなぞ 不明 ・・・ 年始のカルタ会のあと、ひとりの女のことが誘拐された。謎は6枚のカルタ札。その謎を解くと、今度はもう一人が誘拐される。最初の謎が解かれたあとは、チェイス・アンド・アドヴェンチャーの冒険小説になる。趣向を凝らした贅沢な一品。
 第三の挑戦 午後5時に消える 1969.01 ・・・ 中学校で放課後の部活中、血相を変えた教師が飛び込んできて、追いかけてきた男が消えたとへたりこんだ。世界に数冊しかないパズルの本を盗まれたらしい。その教師はアパートの自室で刺殺。手元の新聞には血文字で「キタガワニ」と書かれ、実際教師を長年ゆする北川という男がいた。次郎は現場の写真を見ておかしいという。順序に思い込みがあるから、不可解状況になるのだよという合理主義の教えが語られる。
初刊本あとがき ・・・ 犯人当ての探偵生悦は面白いよというこのジャンルへの誘い。


 以下は「中一時代」に連載されたフォト・ミステリー。芸能人が小説内の人物として登場。写真に手掛かりが映っているという趣向。
死体はなぜ歩いたか 1968.04 ・・・ あおい輝彦にサインを願ったら、万年筆をポケットに入れたので、返してもらった。そのあと記者がセットの中で死んでいて、駆け付けるといなくなっている。みつかったのはプールの端。
消えた凶器 1968.09 ・・・ ビレッジ・シンガーズの公開録音の最中、観客のひとりがエアガンで針を撃ち込まれて死んでいるのが発見された。観客の中にはエアガンを持っている者はいない。どうやって凶器を持ち出したのか。
宇宙人がやってきた 1969.12 ・・・ ドラッカー聖書という珍本を盗むという予告状がきた。コント55号に似たガードマンも来て、家を見張っていたが、予告時刻になると、小人の宇宙人が現れた足跡があって、本は盗まれていた。
月に帰った男 1969.03 ・・・ 九重佑三子に会いに来た男が、月から来た男と名乗り、ずいずいずっころばしの歌を歌って、姿を消し、遠く離れた新宿で死体になって発見された。詐欺グループの仲間割れで、人名リストを隠したらしい。ヒントは歌にある。九重佑三子が探偵役。
ふたりの陽子 1969.05 ・・・ 今陽子ピンキーとキラーズ)の撮影を見学に行く途中、男とすれ違いざまにぶつかる。その男は後で撮影所に現れて、今陽子の手タレの女性を宝石店の泥棒と告発した。手がかりは男の落としたガム。探偵役は今陽子
消えた身代金 1969.08 ・・・ 海水浴場でハプニング。その間に妹が誘拐された。身代金は400万円(現在価値だとその10倍か)。衆人環視の砂浜に金のはいったバッグを置いていたら、スモークがたかれて、バッグは消え失せた。松原智恵子が謎解き。
新幹線爆破計画 1969.12 ・・・ 新幹線に爆弾を仕掛けたから教えてやったぜという電話がかかってきた。実際に爆弾がみつかり、熱海のあたりで停車した。なぜ事前に教えたのでしょう。千葉真一の記者はあまり活躍できなかった。
消えた文字の秘密 1970.04 ・・・ 「川田屋」の文字がはいった自動車の「屋」だけが消され、記憶喪失の男が見つかった。その男は文字の消された自動車の写真に写っていた。森田健作が謎解き。トリックより、この時代にはまだ集団就職の名残があったことが気付き。
となりの誘かい事件 1970.06 ・・・ となりの家の姉さん(と呼んでいる娘さん)が誘拐された。今日中に1千万円用意しろという。姉さんの書棚の川端康成全集の置き方がおかしい。これは暗号では。布施明が推理のきっかけをつくる。
消えたトラック 1970.09 ・・・ 日本に一台しかない産業機械が盗まれた。トラックにつめて出ていったが、十字路にいた有名作詞家は見ていないという。トラックはどうやって消えたか。てがかりは岡崎友紀カメラマンが写した写真。
ゴムの仮面 1970.11 ・・・ 草むらに警官とゴムの仮面をかぶった男が殺されていた。ゴムの仮面は近くのスーパーの店主の家から強盗してきた金を隠そうとするところを発見されて、もみ合いになったらしい。発見した女の子は森進一の刑事に真相を伝える。なぜ仮面をかぶったまま殺されたのかの説明が秀逸。
赤い道化師 1971.02 ・・・ 赤い道化師(レッド・ハーレキン)が小栗博士の研究を盗むと予告してきた。その日、景観が詰めている中、ハーレキン(今ならハーレクインと書くだろう)が現れ、書類を盗み出す。渚ゆう子のおねえさんは怪盗のからくりを見つける。
 フォトミステリーという企画はこの後も続いていて、自分も1973年の「中一時代」で読んだ記憶がある。この「少年コレクション」には見当たらないので、ほかの作者によるものだったのだろう。今回もそうだし、当然とうじも真相はさっぱり見抜けなかった。ジュブナイルといっても手を抜かない作者の姿勢がいさぎよい。
 ことに本のタイトルになった「蜃気楼博士」。乱歩の通俗長編にもあるような趣向であるのだが、これを最初の本格推理として読んだ中学生には大ショック(あるいは憤激)になるのではないかな。そこまでして読者の予想を覆す趣向を凝らすのかと。たぶん、その驚きや怒りの納まったあと、さらに推理小説を読むに違いない。なんともよい入り口を用意してくれた。
(といいながら、自分は中学生になったら、いきなりアイリッシュやクイーンやクリスティを読みだしたので、センセーや辻真先らのジュブナイルには出会う機会がなかった。)