odd_hatchの読書ノート

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中山治一「世界の歴史21 帝国主義の開幕」(河出文庫)-2 イギリス-フランス-ロシアvsドイツのブロック経済圏の均衡が破れ、政治と外交では戦争は終結しなくなる。

2018/03/08 中山治一「世界の歴史21 帝国主義の開幕」(河出文庫)-1 


 安定と均衡の19世紀末。その均衡を破るのは、ふたつの周縁。ひとつはヨーロッパという地域の周縁で外部とつながっているところ。すなわちバルカン半島。強大国トルコの衰勢で、この地域の民族自立が活発化。もうひとつは、安定と均衡と繁栄から追い出された階層や階級の人々。およそ100年前のフランス革命で蜂起したが、時間をかけて抑え込んだ周縁が自由主義と民主主義のかわりに、民族主義共産主義で抵抗するようになった、という感じか。
 帝国主義の満足する国家は、20世紀になって二つの陣営にまとまる。ひとつはイギリス-フランス-ロシア-日本(日露戦争で対決した国は終戦後に通商他の協約を締結して満漢の利権をわけあうようになる)。もうひとつはドイツ。そこにオーストリアとイタリア(後者は微妙)が加わりブロック化する。このブロックは均衡していたが、サラエボの発砲で破たんする。それぞれのブロックが締結していた条約や同盟には、関係国が戦争になったとき参戦する規定があったのだ。サラエボオーストリアに宣戦布告すると、ドイツが呼応。さらにフランス、ロシア、イギリスも加わり、隣接する諸国も巻き込まれる。ヨーロッパが他の地域に影響することはあっても、その逆はないので、ヨーロッパのほぼ全域が戦場化したこの第1次大戦を「世界戦争」と呼ぶのも、当時においては正しい。
 こと戦争に限って、この世界大戦の重要なことは、それ以前の戦争が短期決戦・戦闘で決着をつけるものであったのが、長期持久戦・総力戦となり、政治的に決着をつけるものになった。戦闘員の技量や戦術・戦略は一時的な優位は取れても長期的には、当該国の戦争リソース(人口、生産力、資源など)の多寡に優位が決まる。軍人の質量よりも、国家による国民統制の方が大事(なので、中世の戦争のように傭兵などいない。国民軍のために徴兵が行われ、植民地からも「義勇兵」が出兵される)。統制は特に国民生活と国内経済において。その耐乏生活は国内の不安や不満を大きくして、反戦・政権打倒・革命の運動に直結する。さらに「世界戦争」になったために、参戦していない国による仲裁の可能性が消失する。ある重要な戦闘で勝敗が決したときに仲裁、休戦にいたる政治や外交手段がとれなくなり、どちらか一方の国の内部的崩壊か無条件降伏でしか戦争を終結する方法がない。前者はロシアであり、後者はドイツ。さらに、戦勝国は敗戦国の体制変革の管理と世界の再建に義務を負うことになる。戦争の性格が、ここで一変してしまった。
(なので、世界大戦以前の軍略本の大半は無効になってしまったか、極めて狭い一分野だけをカバーしているにすぎなくなったのではないか、と暴論をいってみる。古いジェミニ「戦争概論」(中公文庫)(フランス革命ころ)はつまらなかったし、あのぶっといクラウゼビッツ「戦争論」にも興味を惹かれない。)
 この大戦において、政治と軍事のイニシアティブをとったのがアメリカ。戦場になったために生産と軍事のリソースが急減し、膠着状態を打破できずにいたときに、連合国(イギリス-フランス-ロシア-日本ブロック)に参加することで戦局を一変させた。このとき日本は太平洋のドイツ属領の奪取と中国の利権獲得に動いていたために、イギリスやドイツと不和状態になり、世界戦争が継続することを望んでいたので、仲裁や調停の機能を果たすことはなかった。アメリカはヨーロッパの政治や戦況に無関与であったのを、時の大統領ウィルソンが原則を立てて、戦後の世界復興の見通しをつくる。民族自決、海洋の自由、軍備縮小、勝者なき平和、世界平和機構の設立、無賠償無併合など(著者によると社会主義陣営の要求のくみ上げであると同時に革命の可能性を奪うものであったとのこと)。これは戦後処理においては、なし崩しにされた(国際連盟が設立されてもアメリカ、ロシアなどの大国が不参加など)。それでもアメリカの政治・外交方針の基礎となり、第二次大戦の敗戦国処理と戦後復興ではこの原則を実現しようとした。アメリカにも帝国主義の政策があり、周辺諸国の経済的属領化を行っていたのであるが(キューバ、フィリピン、ハワイなど)、一方で<民主主義>の旗手として世界をリードしていく。

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 このあと23巻で「第二次世界大戦」を扱うのだが、著者の考えが自分と合わないので、プロローグで読むのを断念した。