odd_hatchの読書ノート

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ロバート・マキャモン「遥か、南へ」(文春文庫)-3

2019/02/19 ロバート・マキャモン「遥か、南へ」(文春文庫)-2 1992年の続き。 

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 もうひとつのストーリーがあって、こちらはバウンティハンター二人を主人公にする。
・銀行はダンをとらえるものに懸賞金1万5千ドルを出した。それを目的にバウンティハンターのフリント・マートーが派遣される。彼は腹にクリントという双子になれなかったものの片腕と口をもっている。そのため若いころはフリークショーで見世物になっていた。フリーク好きにスカウトされてバウンティハンターになった。夢に見ているのは白い家で、そこでなら現在のような荒んだ生活をしないですむと考えている。
・フリントの相棒になったのはエルヴィス・プレスリーのインパーソネーター(物まね芸人:アメリカにはこの職業があって、プレスリーマリリン・モンロージミ・ヘンドリクスなどは数百人いるといわれる)であるプレヴィス・アイスリー、本名はセシル。舞台でしくじり、ジャンクフードで肥満している。ブルドッグの「ママ」をいつも傍らにおき、のべつまくなしにしゃべる。大人になりきれないまま成長した男。
 二人は、それぞれが過剰なものをもっているために、社会に適切な場所を得ることができず、他者からさげすまれ、自分の殻に閉じこもろうとしているひとたちだ。変化を起こしたいという希望はありながらも、現在から逃れることが非常に難しい。フリントはギャンブルの借金があるし、アイスリーは自己節制ができない。なので、彼らは裏の仕事で金を得ようと、賞金稼ぎになる。プロフェッショナルでありながら、フリントの今回の任務ではへまばかりするし、役立たずと思われたアイスリーは時にフリントの危機を助けることができる(ショットガンをつきつけられたり、石油会社の荒くれに喧嘩を売られそうになったとき、プレスリーの真似で拍手をもらうところはおもしろい)。まあ、強面とボケの二人組の漫才じみた珍道中を送るわけだ。
 だが、決定的な失敗は沼沢地近くで地元のならず者にガンを飛ばしたことか。そのため、地元のやくざ連中に追いかけられる羽目になる。その結果、せっかくダンを手中に収めたのに、やくざ連中がフリントとアイスリーを拉致してしまう。まあ、彼らの後ろめたい仕事のライバルと間違ったわけだ。フリントは奇形のためにシャツとスーツを脱げないし、アイスリーはプレスリー風のジェットスーツにとんがったリーゼントだからね。目立って仕方がない。反撃を試みるものの多勢に無勢、飢えたワニがうようよいる沼に投げこまれそうになる。ここにおける彼らの心理描写が見事。彼らは人生を振り返り、別の人生の可能性を考える。これまでの人生は、自己の殻に閉じこもり、他者の視線を遮ること、不平と不満を暴力でかたをつけること。ぞれに、どうもこの二人は、それまで対等の関係を他者と結ぶことができなかった。支配するか(フリント)支配されるか(アイスリー)であって、友好とか相互理解の関係を作れなかったわけだな。死に直面したときに、フリントもアイスリーも自己変容が起こる。すなわち、自己の可能性に賭けてみること、自堕落な生活を捨て、自律する生活を送ること。そのときに、彼らのもつ過剰さ、負のスティグマは別に気にするものではなくなる。
 これは作家が「スワン・ソング」に書いたメッセージ「人間の外観はその人の内面を正確に表現する」を乗り越えている。「スワン・ソング」では「ヨブの仮面」という奇病により、内面の美しいものは美男美女になり、よこしまな考えを持つ者は醜い顔になるのだった。おとぎ話の世界では、まあそのような設定をして、モラルを説くのであろう。だが、我々の世界では内面と外見が異なっているのはあたりまえ。外見で判断することは生活でさまざまな失敗をするからね。多くの詐欺師が身なりをきれいにし、金離れがよいようにみせかけているし。この作品で書かれるモラルは、よりわれわれの生活に近しいもの。