odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

エドガー・A・ポー「ポー全集 4」(創元推理文庫)-3「アルンハイムの地所」「ランダーの別荘」ほか

 全集4の短編。ポオ30代後半の作品。

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アルンハイムの地所 1847.03 ・・・ 「庭園」「ウィサヒコンの朝」で夢想された造園を具体的にイメージする。造園術もここまでくると精神的な目的を実現する手段になり、ほとんど哲学や芸術と同じところにいる。ヨーロッパの庭園は18世紀までは人工的につくられるもの(ヴェルサイユ宮殿の庭園やイギリスの迷路庭園のような)だったので、このような「自然」美を造形するのはめずらしかったのではないか。施主エリソンの考えは地上は至福の状態にあるように設計されているはずだが、地質変更がだめにしてしまったというもの。ここでは自然の本来性が環境で損なわれているというゲーテの自然観に似ていることと、地質の変化は長期的に起きていることが承認されている(しかし生物の進化論は普及していない)ことに注目。このような自然観はこの直後のダーウィンによって破られてしまった。後半は、近くの都会から船にのって「アルンハイムの地所」に到着するまでの工程を描く。花や太陽や水の描写がとてもエロティック。最後に山々に囲まれた広々とした円い盆地に到着するのだが、これって風水の理想郷ににている。

メロンタ・タワタ 1849.02 ・・・ 「ハンス・プファアルの無類の冒険」のパロディみたいなユーモア編(というかおふざけ)。気球にのって降りられないから、日記を読んでもらおうというわけで、ヨーロッパの思想をこけにする冗談と、気球の上の冗談がつづられる。気球からおりられないのは宇宙ステーションを予言するもので、ヨーロッパの思想をコケにするのは形而上学批判を先取りするもので・・なわけないな。ラストシーンも自作のパロディ。

ちんば蛙 1849 ・・・ この全集で使われたタイトルは現代にそぐわないので、今は「跳び蛙」と訳される。中世の宮廷には小人で障害を持つ道化がいて、王にタメ口や冗談をいうことができる。今晩も道化「跳び蛙」を王と重臣はなぐさみものにした。跳び蛙の恋人が殴られたあと、跳び蛙は王と重臣をオランウータンに変装させるあそびを提案する。心の奥底の憤懣や憎悪はポオがこのころに持っていたものなのかな。乱歩「踊る一寸法師」を参照。

×だらけの社説 1849 ・・・ 架空の街の架空の新聞が互いに「o」と「u」を多用した社説を書いたために、それらの活字がなくなって、「x」で代用したので、わけのわからない文章になりました、とさ。翻訳はがんばってます。楽屋落ちなのだが、ポオに起きた出来事かしら。

フォン・ケンペレンと彼の発見 1849 ・・・ ケンペレンの実験室に踏み込んだとき、トランクのなかは真鍮ばかりだった。それは金になる前の素材であったが、発見はケンペレンの逮捕とともに失われようとしている。執筆時現在の錬金術

ランダーの別荘 1848-49 ・・・ 「アルンハイムの地所」の続編。前編で「地所」にはいる滝のふもとにきた「わたし」は別荘に到着するまでを丹念に描写する。この記述をもとに、「ランダーの別荘」の地図を描いた人がいる。雑誌「カイエ」1979年9月号の「ポオ」特集号に掲載されていた。どこかで松岡正剛氏がつくったと読んだが、雑誌の目次にはいなかったようだ。この図をみると、「ランダーの谷間」が女性器によく似ている。エロティックな感覚は文章にみならず、図面にもあらわれるのだね。風水が理想郷をつくると女性器に似ると荒俣宏氏が指摘していたが(どこだったかな、たぶん「風水先生」集英社文庫)、風水と関係ないところで構想した理想郷も似ているのが面白い。

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(雑誌に掲載された「ランダ―の別荘」の地図

スフィンクス 1846(1849) ・・・ 夕暮れに本を読んでいたら、山の裾を怪物(胸に髑髏の印あり)を見た。あまりの恐怖に死にそうになった。それを友人に話すと、一冊の書物をもってきた。教訓があるとすれば、自分が異常な体験をしたとき、自分の認識が間違っているのではないかと懐疑しよう。あまり恐怖や陰鬱の気分にふけっていると、自分の認識はそれに引きずられて誤りを犯しやすくなる、あたり。「早すぎた埋葬」といい「スフィンクス」といい、隠れテーマは懐疑主義。またありふれたものでも拡大すると、怪物や異様なものに見えかねない。顕微鏡や望遠鏡が人間の認識を変え、ジャーナリズムがそれを普及した(オチがわかるためには、博物学図鑑をみていないといけない)。

暗号論 1841 ・・・ おもに文字の置換による暗号。どうやらポオとその雑誌は読者に挑戦したらしく、言語を限定したうえで暗号を募集し、すべて解いてしまった。第二次大戦中、暗号解読技術に投資をしたおかげで、暗号はこの論からはずっと難しいものになってしまった。古き時代の職人技を楽しむべきで、最近の暗号は数論とコンピューターが必須のようなので、自分にはよくわからない。

 

探偵作家としてのエドガー・ポオ(江戸川乱歩) 1949 ・・・ 戦前は幻想小説家と知られていたポオを探偵作家として評価しようという論文。ポオの書いた探偵小説は5編だけ(「モルグ街の殺人」「マリ・ロジェの謎」「黄金虫」「お前が犯人だ」「盗まれた手紙」)で、一編取るとすれば「盗まれた手紙」だとのこと。ディケンズとポオの関係はここに詳しくかいてあった。
 自分がポオの探偵小説を選ぶとすると、上記5編に「メルツェルの将棋指し」「群衆の人」「煙に巻く」「告げ口心臓」「長方形の箱」の5編を追加する。自分は探偵小説の範囲を広くとるから(でないと「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」のおさまるジャンルがない)、5編に限定するのはもったいない。


 1849年10月7日、享年40歳で死去。死亡時の貧困と悲惨さはモーツァルトに近しい。残念。