odd_hatchの読書ノート

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山口雅也「生ける屍の死」(創元推理文庫)-1

  創元推理文庫で650ページ弱の分厚さで、途中でメモを取るのをあきらめたから、以下のサマリーには盛大に勘違いがあると思います。

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 アメリカ、ニューイングランドの片田舎にあるトゥームズヴィル(墓の町)という奇妙な名前の町。イギリスから移民したバーリイコーン一族の当主スマイリーが一代で葬儀産業を築き上げた。それまで共同体や親族や組合などで行ってきた葬儀をビジネスにして豪華絢爛なものにし、死体を修復し化粧を施すなどして、葬儀の形態を変えてしまった。それは、1920年代からの、経済成長し都市化が進んだアメリカで大いにあたった。さて、1980年代後半、ビジネスは州を越えるものではなかったが、当主スマイリーはそろそろ死を予感していた。でもこの奇矯で冗談好きなお年寄り、何度も臨終の秘蹟を行って周りをあきれさせる。というのも、最初の妻が自殺、2度目の妻がいまは身体が不自由であるとはいえ、合計5人の子供に孫、甥や姪など十数人がいて、それぞれバーリイコーンの遺産の分け前を受け取ることになっている。同じ稼業についているとはいえ、仲が良いわけではなく、角突き合わせ、衝突を回避するために引きこもるものもいれば、精神病医に通うものもいるのである。
 このトゥームズヴィルでは奇妙なことが起きていた。数回の死者蘇生事件(臨床医が死を確認したにもかかわらず、ボディが動き出して行方不明になった)、若い女性の失踪事件(十年以上前にサイコパスの連続殺人事件がおきていた)。警察はこれらの事件に駆り出され、疲労困憊している。
 その街に、スマイリーの甥になるパンクの少年グリンが戻ってくる。そのときからバーリイコーン家の情念が沸騰する。まず、グリンが亜ヒ酸を飲んで死亡。スマイリーが自殺、事業を継承している息子ジョンが撲殺、娘の夫が事故死。これらの事件で、死者蘇生が起こり、冒頭200ページで毒を盛られて死んだグリンは、ボディは死体のまま意識を復活させ、自身にエンバーミング(遺体に防腐・殺菌処置他を施して生前の姿に近づける技術)を施して、不本意ながらの探偵を務めることになる。
 死者が動くという趣向であれば、ノックスや都筑道夫の「まだ死んでいる」があって、珍しくはないが、ここでは文字通り死者が甦り動き回る。みかけはロメロ監督「ナイト・オブ・リビング・デッド」に代表されるゾンビや吸血鬼映画(ちなみに西洋では土葬が一般的)。ちょっと違うのは、意志(とはいったいなに?)をもって動き回り、生者や死者と会話するというところ。死者は自分が死んだ時のこと(とはいったいいつのことか?)を覚えているが、たいていは犯行者を覚えていないので捜査の役にはたたない。
 1989年初出のときには、この設定が「リアル」でないと批判されたらしい。そう固いことをいわず、アシモフ鋼鉄都市」「裸の太陽」や風見潤編「SFミステリー傑作選」(講談社文庫)収録作品のように、この世界に地続きにありそうな世界にいくつか補助線をいれたり、前提を少し改変したりするSF-ミステリの変種と思えばよい。むしろ、その補助線や改変された前提が小説世界で一貫して使われて、その理屈を崩すことなく合理的・論理的な解決ができることが大事。この作品ではそこは見事にクリアしているので、まったく非難されるいわれはない。
 このように死者が活動的な世界なので、死体は行方不明になるわ、葬儀会社の設備を使って死体が消失するわ隠されるわ、カーチェイスの果てにガソリンスタンドが爆発炎上する事故が起こるわ、過去の因縁(とはリビングデッドにどういう意味があるのか)があきらかになるわ、いろいろ。あまりに大量の情報がでてきて、俺はトレースしきれなかったです。だもので、「ではみなさん」以降の説明では、驚愕しっぱなし。見逃したあの情報がこれにつながるのか、そういう仕掛けだったのか、こいつはこういう意図でそれを行ったのか、と長い説明を読みました。そのち密さ(および浮かびあがる構図)からロス・マクドナルドの傑作をいくつか思い出したほど。
(事件を捜査するのはトレーシー警部。組織を使った捜査の定跡が使えず、容疑者が全員自分より頭がよいので、強面の自白強要もできない。ストレスのあまりに胃薬と精神安定剤を常用。顔色はリビングデッドより悪いと揶揄されるくらいにさえない探偵。推理はことごとくピント外れで、動転してはパニックに陥る。結局、グリンの力に頼る。この探偵の描き方がアラン・グリーン「くたばれ健康法!」創元推理文庫そっくり。そういえば海外作の原題は「What a Body!」で、ここでもボディの二重性が問題にされていたのだった。)

 

    

 

2019/11/04 山口雅也「生ける屍の死」(創元推理文庫)-2 1989年