odd_hatchの読書ノート

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河出文芸読本「ドストエーフスキイ」(河出書房)-2

2019/11/19 河出文芸読本「ドストエーフスキイ」(河出書房)-1 1976年

 

 もうすこし具体的な問題を取り上げた論文を読む。全体の10%に満たない文章のほうが重要だった。

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ドストエフスキーE・H・カー)1931 ・・・ 歴史家カーの最初の本であるドスト氏の伝奇の抜粋。ドスト氏の影響は死後25年は国外にでなかった。ドスト氏の神学は執筆当時でも時代遅れ、不合理の心理学に読者は熱狂して他の作家に影響を及ぼした。でも、それより芸術的統合体が重要。(なんともそっけないが、この見方の方が今の俺には好ましい。)

ドストエーフスキイの時代(岩間徹)1963 ・・・ ドスト氏の活躍したロシアのできごとは、クリミア戦争(1853-56)、ニコライ一世の死(1855)、農奴解放令(1861)、露土戦争(1877-78)、アレクサンドル二世暗殺(1881)。農奴解放令などの近代化改革は、工業化と官僚化となり、労働者階級を誕生させ、資本主義と貨幣経済を浸透させる。それまでの地主貴族が没落(初期作品にたびたび登場)、ブルジョアや中間階級が増加(後期長編に顕著)。アレクサンドル二世の近代化の変革だけでは不満で体制変革を志す者がでてきて、1840年代から活動を開始し(スチェパン氏@悪霊)、1860年代から革命家が誕生(ピョートル、シャートフ、キリーロフ@悪霊など)。ドスト氏はロシアメシアニズムを体現していて、これらの民衆から遊離した知識階級(と革命家)を否定。(そうそう、こういう社会と歴史の解説が欲しかった。著者は「世界の歴史16 ヨーロッパの栄光」(河出文庫)を書いた人。山川出版社で「ロシア史」も書いている歴史家。)

ドストエフスキーギリシャ正教古野清人)1963 ・・・ ギリシャ(ロシア)正教の特長は、「キリスト中心」「秘蹟的・境界的」「苦悩を強調」「聖像を通じて聖霊の世界のビジョンを受ける」「罪悪感が強い」など。高橋保行「ギリシャ正教」(講談社学術文庫)も参照。ドスト氏は敬虔なロシア正教徒。小説には霊的体験、苦悩の要請、憑かれた人々などがみられ、神の存在(をめぐる懐疑と信仰)がテーマ。神なしに生きられない人の苦悩を描く。(そうそう、こういう宗教の解説が欲しかった。)

ドストエフスキーと父親殺し(萩野恒一)1971 ・・・ フロイトの論文を参照して、ドスト氏のエディプスコンプレックスを見る。

エッセイ ・・・ 堀田善衛/丸谷才一/河野多恵子/金子光晴/杉浦明平/五木寛之(大正から昭和30年ころまでの日本の作家によるドスト体験。すべて初出は河出書房版「ドストエーフスキイ」全集の月報)

革命と死と文学(埴谷雄高大江健三郎)1972 ・・・ 雑誌「世界」1972年6月号で行われた対談。大江の発言だけが 大江健三郎「壊れものとしての人間」(講談社文庫)の「自註と付録」に載っている。これは埴谷の発言もいれた完全版。たぶん単行本化されていない。その年に発覚した連合赤軍事件を題材に「悪霊」を語る。埴谷のモチーフはピョートル、シャートフ、キリーロフらの革命家を救うこと。ロシア革命(たぶん2月革命からの内戦)の初心が失われ退廃が起きたことと同じ失敗を繰り返さないように考える。そのときのポイントは階級構造と理論重視と大衆嫌悪の克服。でもセクトはどれものちに失敗したな。この後に書く「死霊」第5部は埴谷による「悪霊」克服の苦闘となる。大江のモチーフは戦後民主主義の徹底。埴谷の議論はボルシェヴィズムに希望を持つというので間違っているし、大江のは歯切れが悪い。ふたりの「悪霊」の読みはそれほど面白いものではない。
(埴谷の階級構造と理論重視と大衆嫌悪の克服という課題。最初のふたつは徹底するより、壊した方がいいというのが3.11以後の運動。指導者と大衆という構図をなくすこと、理論はそれほど重視せず運動の情報とノウハウの共有を重視。大衆嫌悪の前に、革命家になることを否定し(それはレーニン主義の否定と同じ)大衆のまま運動に参加する。)
2017/05/09 笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-1 2016年
2017/05/08 笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-2 2016年
2019/04/9 木下ちがや「ポピュリズムと「民意」の政治学 3・11以後の民主主義」(大月書店)-1 2017年
2019/4/8 木下ちがや「ポピュリズムと「民意」の政治学 3・11以後の民主主義」(大月書店)-2 2017年