ここでは政治的なもの、論争的なものを集める。ドスト氏のジャーナリスティックな側面がうかがわれる。同時に、創作ではなかなか見えない政治的主張や偏見が顔をのぞかせる。
アポロン・グリゴリエフについて 1864.09 ・・・ N.ストラーホフの論文をネタにして、グリゴリエフを罵倒。ここは兄の思い出と「虐げられし人々」を書いていたころの記録が面白い。
シチェドリン氏、一名ニヒリストの分裂 1864.05 ・・・ 「ロシア文学について」にもでてくるシチェドリンのおちょくり文章。「悪霊」第一編第一章6に出てくる意味のない詩がでてくる。
政治論 1873-74 ・・・ このころのヨーロッパ情勢のレポート。主なできごとは、普仏戦争(ドスト氏はこの戦争をカトリックvsプロテスタント、共和制vs帝政の文明戦争を見る)、スペイン王位継承問題、オーストリア・ハンガリー二重帝国の不安廷など。イギリスとイタリア(独立運動がさかん)にはほとんど言及なし。ドスト氏の政治好きは、このあとの「作家の日記」に引き継がれる。21世紀に読むには些細なことばかりが書かれているので、同じ集中力で読み通すのは困難。ドスト氏の政治姿勢がかいまみられて、反フランス革命(反自由主義)、反ローマ・カトリックなど。また政治は王や貴族や議会で決まるものとみているのか、民衆や市民の運動にはほぼ無関心。このレポートに登場する歴史上の人物は、ルイ・ナポレオン、バクーニン、ウィルヘルム皇帝、ビスマルク、モルトケ、カール・マルクス、フランツ・ヨーゼフ二世。ドスト氏の同時代人はこういう人たち。名前を並べるだけで、ドスト氏のいた時代が生き生きとしたものに感じられる(読者の知識が活性化されるためだ)。
途上小景 1874 ・・・ 汽車や鉄道の乗客のスケッチ。ひとり分で2000字くらい書くという観察と描写の手腕。当時は髪型や服装で職業や階層を見分けることができた。
ペテルブルク年代記 1847 ・・・ ペテルブルグの明るさ、華やかさ。その下にある憂愁と停滞の気分。20代の才気あふれる若者の、いささか冗長で、中身のない文章。一部は「白夜」に引用されたとのこと。これを書いた20年後に、同じ町をラスコーリニコフらが徘徊するようになるのだよな。
『ズボスカール』 1845.11 ・・・ ズボスカール(嘲笑者)というユーモア文集の宣伝文。シベリア流刑前のドスト氏の軽薄体。
ペテルブルグの夢 1861.01 ・・・ 雑誌記者が書いたという設定の散文と詩。前半はペテルブルグの人たちの素描。主に貧困にある人達。後半は「ロシア文学について」の続きのような批評家たちへのあてこすり。全体は思想のない「地下室の手記」という趣。これや「途上小景」などで書いた人物素描がのちの長編大作に反映しているのだろうな。
誠心誠意の見本 1861.03 ・・・ 女性による詩の朗読に、誹謗中傷・侮辱する文章を載せた批評家への抗議と反論。謝罪のフルをする批評家をこてんぱんにする。当時からこういう不誠実な「謝罪」があったのだね。でも、ドスト氏は詩を朗読した女性に「時期尚早」などとアドバイスをするのはダメ。こういうバランスのとり方は不要で、批判の対象者だけのことを書くべき。
『口笛』と『ロシア報知』 1861.03 ・・・ スキャンダリズムの雑誌「口笛」と、それに対応しているうちに低俗になった雑誌「ロシア報知」への批判。背景がわからないので、曖昧模糊とした読後感。
『ヴレーミャ』編集部にあてたヴァシーリエフスキイ島住民の手紙に対する注 1861.04 ・・・ 前の文章の続き(だと思う)。
『ロシア報知』への答え 1861.05 ・・・ 女性解放論を唱えながら女性を侮辱する「ロシア報知」への反論。ドスト氏は女性解放には与しないが、女性差別には戦う姿勢をもつ。すべての人間には尊厳がある主張するドスト氏には当然の立場。
文学的ヒステリー 1861.07 ・・・ 前の文章の続き(だと思う)。
『ロシア報知』の哀歌的感想について 1861.10 ・・・ 前の文章の続き(だと思う)。唐突にチェルヌイシェフスキーへの罵倒。中身無し。また反ユダヤ主義の文言が現れる。
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