odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

蝋山政道「日本の歴史26 よみがえる日本」(中公文庫)

 1945年の敗戦から1967年(おそらく執筆時)までの約20年間。現在進行中のできごと、存命中の人々を記述するので、これまでの歴史研究者ではなく政治学者が執筆する。戦前の昭和3年に東大法学部の教授になり、川合栄次郎といっしょに昭和14年辞任。その後、翼賛体制下で政府の仕事を行う。公職追放にあうが、解除後に国会議員にもなり、ふたたび教授職に就く。そういう人物が個人的な体験といっしょに昭和を記述する。今では入手しにくい国会演説、インタビュー、対談などの引用が豊富なので重宝しそう。一方で、現在の出来事は整理されずに/できずに、年代史としかなっていないところがあって、散漫で冗長。戦後のできごとは個別の問題や事件ごとに勉強してきたので、熟読する根気を持てなかった。

f:id:odd_hatch:20210126091051p:plain

 それでも気づきはあるので、いくつか。
 敗戦と占領は日本に民主化をもたらしたとされるが、戦前の遺物で取り除かれたのは軍隊の関係者。軍が解体され、軍事裁判で処罰され、多くが公職から追放されて、軍が組織的に政治や経済に影響を与えることはできない。しかし、それこそ明治維新からの独裁制官僚はそっくり温存される。戦犯だった官僚がのちに総理大臣になることに象徴。その結果、尊皇と反共、そして大衆・民衆嫌悪は維持される(ポツダム宣言受諾後も治安維持が優先され、政治犯の釈放もなかったのだ)。
 それは占領期でも同様。占領軍は民主主義化の障害として、日本の古い制度を改革することを命じる。すなわち、家族制度、地主制度、地方制度、官僚制度、教育制度、雇用制度。改革は民法の改正、農地解放、組合結成、財閥解体などで行われるが、すぐにバックラッシュが来て、骨抜きにされる。あるいは頑強な抵抗にあい、占領終了後には元に戻される。
 いったい占領終了といったが、サンフランシスコ講和条約が全面講和ではなく不参加や拒否する国があり、同時に日米安全保障条約が締結されて占領軍の名前が代わってそのまま駐留を続ける状況を独立と言えるのか。占領終了後に「自主外交」を始めるものの具体的な成果は乏しく、日本が国際協力でリーダーシップをとることはない。ときにはアメリカの追随をするしかない(角栄の日中国交回復が典型)。本書を読んでもよくわからないのは、いつから親米や対米従属に変わったのかわからないこと(まあ、尊皇と反共のイデオロギーしかない機会主義者の官僚が強いものに巻かれたのだろう)。
 大衆嫌悪は、住民無視の開発や公害放置などにみられるし、警職法その他の労働運動、住民運動、大衆運動を暴力をもって押さえつけることにみられる。さらには、東アジア諸国への蔑視や差別を温存し、政策化する。敗戦後、植民地への賠償をせず、在日外国人へのセイフティネットをつくらない。1950年代後半に北朝鮮帰還事業を政府は後押ししたが、棄民に他ならない。戦前にはいた中国、台湾、朝鮮などと交流する政治家(とくに保守派)が減少した(なので、21世紀には交渉の窓口を見つけられない)。
 われわれは1945年8月15日を歴史の転換とみるが、まったくそうではないことが本書などの戦後史を知ることによってわかる。