odd_hatchの読書ノート

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川西正明「謎解き『死霊』論」(河出書房新社)-2

2021/05/20 川西正明「謎解き「死霊」論」(河出書房新社)-1 2007年の続き

 

 この長大な小説をおもに「存在」「虚体」をめぐる議論を批判しながら読んだ。なので「謎解き『死霊』論」を読んで、登場人物たちの関係や行動で読み漏らしたところがあったことに気付いた。なので、以下に俺の読み落としたことをメモすることにする。

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序詞 ・・・ ジャイナ教の戒律は「殺すなかれ」、自己存在の否定と宗教的自殺を実行(与志との親近性)。

第1章 ・・・ 気象記録をみると「暑い夏」は1933年。癲狂院の永久時計をつくったのは「ねんね」と「神様」の父。

第2章 ・・・ 小説の時刻の5年前に、与志(17歳)と安寿子(13歳)の邂逅、矢場徹吾の失踪、高志と首のいる組織のスパイリンチ殺人事件(そのあとの尾木節子と一角犀の「心中」)が起きている。「自同律の不快」は仏教の悟りの対極。首猛夫は元運動家で組織の一人であったのが、一人狼になった。宣戦布告は父への復讐であるが、広志はすでに死んでいるので最も近しい津田康造をターゲットにした。

第3章 ・・・ 無垢な交感:鋳掛屋と燕、黒川と蝙蝠、「神様」と「ねんね」と黒川(これ以外に尾木恒子と赤ちゃんもいれられそう)。逸脱な歴史は独房の思想で、高志・首・矢場が共通。与志は独房体験がない。与志の「未出現なままどこかに遍在する」は、「いま」「ここ」に対立する(から西洋の形而上学とは別ものなのだろう)。矢場の黙狂は不可知論に立った故(思想や悟りは伝達できないから黙っている)。これは大雄や与志も共通。

第4章 ・・・ 大雄はアジア的虚無の持ち主で、津田康造もそう。首の本質は1%の形而上学的不快と99%のアジア的行動様式(死や無への志向)。この章までは与志が虚体を語るであったが、与志が虚体になるに構想が変わった(次の章が書かれるまで26年の中断)。

第5章 ・・・ 与志は恒子から持ち出したロケットを開けて、高志の話を聞く。心中した節子に高志の言い分を聞かせている。高志の「自分だけでおこなう革命」はひとりでしめくくる最後の課題であると与志が指摘している(与志が釈迦と大雄の対話を語ることへの先取りなのだろう)。夢魔や霊のイメージはウィリアム・ブレイクから。

第6章 ・・・ 全否定者の全的拒否は「許容しない」「承認しない」で、イワン@カラマーゾフの兄弟の系譜。「愁いの王」はゲーテファウスト」第2部の憂愁をモチーフにしている。最終章の最後の対話の形を先取り。ボートの転覆は、愁いの王の浮き城が転覆したことの象徴。安寿子が津田夫人に初めて反論し、自立を示す(以後、彼女がクローズアップされる)。鷗を飛ばそうと「神様」を皆で持ち上げるのは、与志が赤ん坊を抱くことに対比されている。

第7章 ・・・ 高志の子供嫌いは、父・広志への復讐。チーナカ豆による釈迦の弾劾は、釈迦と大雄の対話の先取り(なので構想の変更が余儀なくされた)。「無出現の思索者」のいるところから夢魔が高志を訪れた(第5章)。

第8章 ・・・ 武田泰淳「富士」はゲーテファウスト」を意識して書かれた(各地の霊が集まって、時空を超えた対話が行われるところ)。「或る霊性をもってこちらを眺めている「ひと」の顔」は節子の虚体。

第9章 ・・・ 安寿子の誕生会で、円筒形の金属が爆発し、黒川が死亡(津田に死をつきつけることで、アジア的行動様式を粉砕するという企み)。黒川の死後、黒川が引きこもっていた屋根裏部屋を高志が訪れる。そこに夢魔が登場し、一角犀・節子、社会運動組織の同士、高志の部屋に出ていた名を知らない亡霊など(それらが死霊だ)が現れる。そこに首猛夫もやってくる。はずだった。

 

 以上、メモ。なんだ、こんなことにも気づかなかったのかと、失笑されそうなリストになった。
 日本の文学史上、前代未聞のユニークな小説と作家と2か月つきあった。とても濃密な時間を過ごしました。

 

 

埴谷雄高訃報1997.2.19読売新聞

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