odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「哀愁新宿円舞曲」(ちくま文庫)、「猫の舌に釘を打て」(光文社文庫所収)

 光文社文庫都筑道夫コレクション「青春篇」に収録されている版で読んだ。併録は「猫の舌に釘をうて」。
 初出がかいていないので、このサイトに載っている年月をいれた。単行本になったのは1974年。
都筑道夫 短篇リスト(一段落版)

www7b.biglobe.ne.jp


娼婦の町 1973.04 ・・・ 昭和48年に40代後半のおとこたちが昭和20年代の新宿を思い出す。映画、居酒屋。おでん屋。そして区役所通りにいた娼婦たち。20年前から様変わりして、人も入れ替わった街をなつかしむ(しかし2019年に1990-2000年ころの新宿を思い出すと、ほとんど変わっていない。店は入れ替わったが、ビルは同じまま)。

歌舞伎町夜景 1971.07 ・・・ 赤線廃止の売春防止法施行の前年(昭和32年)の歌舞伎町の娼婦たちの一夜。親の仕送りに汲々とするもの、覚醒剤の中毒者など。都筑という探偵小説の翻訳をしている青年が登場。筋はないようにみせて、最後に強烈な印象を残す技術。

風のたたずむ窓 1961.05 ・・・ 阿佐ヶ谷から新宿に越してきたワイ本作家。神社の狛犬にまたがって死んでいる男をみている。そこから始まる殺しまでの述懐。1950年代の新宿に暮らす青年が書いた「おとなしい女(@ドストエフスキー)」。もちろん最後にひっくり返しがある。

トルコ・コーヒー 1973.02 ・・・ 昭和40年代のトルコ(風呂)の様子。40代のしょぼくれたサラリーマンが妻の眼を盗んで、サービスを受ける。「本番」「おスぺ」等の言葉はすでにあった。

狂犬日記 1972.12 ・・・ サイコパスの書いた手記と一視点三人称のテキストが交互にならぶ。殺人嗜好のある人物が巴という若い女性に目をつけていた。実行するつもりで部屋にはいったらすでに考えていたのと同じやり方で殺されていた。いわゆる叙述トリック。そういう言葉はなかったころに、センセーはすでに実作していた。

手紙の毒 1973.03 ・・・ アパート暮らしの女子大生がふしだら(死語)をしているという匿名の忠告高脅迫の手紙。父は激怒し、知り合いの若者に調査を依頼。それぞれの書く手紙で顛末がつづられる。19世紀の手紙小説が20世紀に復活。手紙小説にリアリティのあった最後の時代だろう。

HgCl2 1970.06 ・・・ 調剤屋がうがい薬にホウ酸と間違えて塩化水銀(昇汞)を入れてしまった。飲むと死んでしまう。パトカーやラジオで注意を促す。すると、調剤屋にはいたずらがきて、ニュースを使って何ごとか起こそうとする便乗犯もでて。大きくなった騒ぎをしゅるっとまとめる技を楽しむ。

乳房のあるサンドイッチ 1972.01 ・・・ 探偵趣味のあるマンションの管理人。盗聴器の音声を聞いて、殺しの準備が進んでいるといいだす。秘書兼お目付け役は管理人の言いつけ通りに監視に励む。深夜、関係者があつまって公園でひと悶着。探偵道楽のぼっちゃんを行動的なお目付け役が見守るというのは、もどきシリーズやものぐさ太郎シリーズ(この短編が最初のようだ)。

小説・大喜利 1973.03 ・・・ 落語は「ひとりで演じるストーリーを持った笑いの話術」。

穴だらけ ・・・ 一幕の戯曲。アパートに住む20代の夫婦。けんかをして男が残る。そこに妻の妹が来て、隣の部屋に不幸があって部屋を控室に提供すると、死んだ男は会社の金を使い込みしていて・・・。狭い部屋に人が来るごとにもめ事が起きていく。もっとも大きな悪を犯したのはだれか。

 

 最初の4編は新宿を舞台にしているが、あとのは場所が書かれていない。そういう点ではタイトルと中身に齟齬がある。解説によると、光文社文庫に載るまでの30年ほどは文庫化されていなかった。そうなる理由はわかる。新宿を舞台にした短編はちょっと落ちて、後半の場所を特定しない短編のほうがおもしろい趣向。そこでもタイトルと中身に齟齬があった。
 センセーと新宿はあわないなあ。戦前は畑と林だったのが、戦後に開けたので、歴史がない。戦争の記憶を持たない。昔を知っている老人や代々の店というのがない。過去につながる手がかりがないのだ。そのうえ新宿は急速に変化していった。闇市バラックだったのが、飲み屋とアパートになり、ビジネスビルに高級ホテルができる。人々はそこに暮らすのではなく、やってきては帰っていく。土地に根差すものがほとんどない(かわりに隣接する新大久保のコリアンタウンに歴史とその場所に根差す人がいる)。
 若いころにはセンセーも住んでいたようだが、早い時期(昭和30年代)に離れてしまった。この短編集から数年後になって、ようやく浅草と架空の町・多摩由良を見つけて、都市を描くようになる。

 

 以下は独立短編。作家の私生活や半生が反映しているものが選ばれている。
蛇 1977? 1979? ・・・ 子供のころに藁の蛇を持っていたら、お姉ちゃんの具合が悪い。藁の蛇を駆ってくるがすぐに消える。お姉ちゃんが死んだとき、胸に古い藁の蛇があった。大人になってから推理した。

随筆のかけなくなったわけ 1961.07 ・・・ は書斎で書いているところにある男が書いたばかりの随筆の話題で弾劾したからであって・・・。得体のしれない闖入者のせいで、作者の日常とフィクションの境が不分明になる。

雑談小説こねこのこのこねこ 1991.03 ・・・ 都筑道夫「デスマスク展示会」(光文社文庫)所収。タイトルの由来は「子子子子子子子子子子子子(ねこのここねこ ししのここじし)は、日本の言葉遊びである。「猫の子仔猫、獅子の子仔獅子」と読む」から。夏目漱石吾輩は猫である」、ホフマン「牡猫ムルの人生観」、谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のおんな」、大佛次郎赤穂浪士」、シムノン「猫」。

 

 2021年7月にちくま文庫で復刻された。