odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-1 1937年(昭和12)から1941年(昭和16)までの歴史。「太平洋戦争」の戦闘指揮官と東京裁判のA級戦犯が「大活躍」。

 一九三七年(昭和一二)から一九四一年(昭和一六)までの歴史。この巻では、「太平洋戦争」の戦闘指揮官と東京裁判A級戦犯が登場して「大活躍」する。彼らの名前を憶えておいて読むとよい。

日中戦争の歴史的意味 ・・・ 1931年から1945年まで続いた戦争であるが、「シナ事変」と読んで戦争と認めなかった。この間、常時100万人の軍隊が中国に駐留していた。戦費も莫大であった。戦況は完売しくないのに、軍部は撤退を決断しなかった。

「対米開戦にさいして、日米間の交渉の最後の対立点となったのは、中国からの撤兵問題であった。中国からは絶対に撤兵できない、それは日中戦争の敗北をみとめることだ、何をもって戦死者の霊にこたえることが
できようか、国民になんと言い訳できるのか、というのが、撤兵反対・対米開戦論の論拠だったのである(P17)」

 軍部は一撃して講和する案でいたが、一撃しても戦意が衰えることはなく、戦争は延々と継続した。英米経済制裁に耐えかねて戦線を拡大した結果、帝国初の無条件降伏となった。アジアの周辺諸国を侵略し、現地の人々に多大な損害と悲惨を与えた。国は「アジアの解放」と称していたが、実際は侵略であった。

戦争前夜の国内 ・・・ 226事件後の内閣は不安定。陸軍の反発で何度も組閣に失敗。結局、陸軍に支持された近衛内閣になる。当時の問題は、西園寺公望という貴族院の長老が次期首相を推薦し天皇の内諾を得るというシステムが働かなくなること。警察が選挙に介入すること、軍部が政治の実権を握ること。政党政治が消え、全体主義になる。その後押しをしたのが選挙権を持つ男子だった。

日中戦争の発端 ・・・ 紆余曲折の末、近衛秀麿内閣が1937年に成立。それ以前から日本軍はシナ駐屯軍を増強していて、現地中国軍と一触即発状態。中国共産党の大長征が終え、抗日活動が盛んになる。1937年北京近郊で盧溝橋事件が勃発。小競り合いが大規模戦闘に拡大した。牟田口廉也辻政信石原莞爾などの無能参謀が事態を悪化させる。

全面戦争への拡大 ・・・ 不拡大方針を示したが、現地の日本軍が小競り合いから戦闘を各地で起こしたので収拾がつかなくなり、8/14に「断乎たる措置をとる」ことを決め、宣戦布告なき戦争が始まる。「中華民国ノ反省ヲ促」すという以外に戦争目的にうたう大義名分がなかった。当時ソ連は粛軍の最中だったので介入はないと判断し、一撃講和をもくろんだ。しかし戦線は膠着し、停戦交渉すらできない。同年12月に「南京アトロシティ」を起こす。
2021/02/16 秦郁彦「南京事件」(中公新書) 1986年
2021/02/15 笠原十九司「南京事件」(岩波新書) 1997年

戦争への総動員 ・・・ 日本は英米から大量の物資と製品を購入していたので、両国は日本への介入を避けた。日本軍は占領地に「自治政府」を作る(当然承認する外国はない)。ついに1938年1月に「(蒋介石の)国民政府を相手にせず」と首相が声明を出し、停戦工作がなくなる。1937年9月国民精神総動員令、1938年2月に国家総動員法を決定。戦時の統制経済を開始する。戦費や兵備の不足が目立っていたのが背景にある。メディアはこのころには戦意高揚、戦争賛美になっている。国民がそういう記事を読みたがったので。
2022/12/13 鴻上尚志「不死身の特攻兵」(講談社現代新書) 2017年

長期戦の泥沼へ ・・・ 1938年に近衛がやる気をなくすのをなだめすかすのに費やし、大陸の戦線は勝利にいたらず、ソ連との国境で満州軍は負ける。
ゆきづまる戦時体制 ・・・ ナチスドイツは1938年にオーストリアチェコスロヴァキアを侵略し併合した。英仏がナチスにかかりきりだったので日本まで手が回らない状況で、勝ち馬に乗りるために日本は独伊に接近する。近衛はやめたがり、国民の経済と生活の統制が強まる。大学、アカデミズム、文化人のリベラルが排撃され、文化人の動員が進む。

 

 海外の「敵」には苦戦しているが、国内の敵は一掃した。その結果、有力な抵抗勢力からの批判がなくなり、経験の乏しいイキルだけの無能が好戦的な政策をするようになる。大きな反発や「不測の事態」の頻発に対処できなくなり、声を出すものが多すぎて統合しないままぎくしゃくした対応をすることになる。
 独裁(個人や集団でも)になると、システムは機能的になるのではなく、情報遮断や判断ミスが起こるようになって(なにしろ叱られるのが怖い)、どんどん組織をダメにしていく。軍人だけでなく、官僚も、企業人も。そのしわ寄せを食らうのは常に弱者。

 

金原左門「昭和への胎動 昭和の歴史1」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3CEJ9P9 
中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3CsYZwp
大江志乃夫「天皇の軍隊 昭和の歴史3」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3CqJIvT 
江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3ObvZM4 
藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3AwWKYt
粟屋憲太郎「昭和の政党 昭和の歴史6」(小学館文庫)→ https://amzn.to/40QY9DJ 
木坂順一郎「太平洋戦争 昭和の歴史7」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3AJ0beq
神田文人「占領と民主主義 昭和の歴史8」(小学館文庫)→ https://amzn.to/4fMefTw
芝垣和夫「講和から高度成長へ 昭和の歴史9」(小学館文庫)→ https://amzn.to/4fEq1PI 
宮本憲一「経済大国 昭和の歴史10」(小学館文庫)→ https://amzn.to/4eBS8hs 

 

2022/12/22 藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-2 1988年に続く