2024/05/14 趙景達「近代朝鮮と日本」(岩波新書)-1 朝鮮に視点を定め、日本が「異人」であるかのように朝鮮と日本の近代史を見直す。 2012年の続き
日本史を外国の目から見るとき、列島の住民の「常識」が覆される。ことにこの時代の朝鮮半島のできごとを朝鮮人の目で見る本はまずない。かわりに司馬遼太郎「坂の上の雲」のようなエンターテインメント小説で知ることになる。その対比は強烈で、いかに列島に住む者は自己愛に満ちた「物語」で歴史を見ているかがよくわかる。
第6章 大韓帝国の時代 ・・・ 日清戦争で日本がますます朝鮮の利権を得、収奪するようになった。民衆レベルでは独立運動、議会開設運動、国政改革運動が起こる。これは高宗によって弾圧される。皇室は国号を大韓(テハン)帝国に変更し、光武改革を進めようとする。土地測量、貨幣変更・中央銀行設立など。しかし日本の妨害で失敗する。
(高崎宗司「植民地朝鮮の日本」(岩波新書) 2002年で日本の状況を見ると、戦後の不況で朝鮮への移民熱が起きて、大量の日本人が朝鮮にわたっていた。駐留軍隊や公使などの後押しがあるので、暴力的な行為が多発していた。)
第7章 日露戦争下の朝鮮 ・・・ 1900年の義和団の乱で出兵したロシアはそのまま満州に駐留し、大韓帝国の一部にまで進出した。大韓帝国は中立化を模索したが、日本は日韓国防同盟を要求する。日露の対立が激しくなり、ロシアは譲歩を検討したが、提案の前に日本が開戦した。仁川の海戦の前に、日本軍は朝鮮の占領を開始。1904/2/23に日韓議定書を強要し、実質的な植民地化を開始した。以後、日本軍は軍律体制にし、軍用地収奪、役夫徴用(とくに鉄道敷設で)、貨幣整理などを行う。農民の負担大、倒産企業の続出などにいたった。反日抗争が起きたが日本軍は徹底的に弾圧した。
(これも日本人が書く「日露戦争」とはまったく違う様相になる。日露戦争は自衛戦争ではなく、植民地獲得のための侵略戦争だった。上記「坂の上の雲」では開戦の原因となるロシアの動きも、日本政府の朝鮮政策も触れられない。)
第8章 植民地化と国権回復運動 ・・・ 日露戦争の「戦勝」後、日本は朝鮮を保護国にすることを列強に承認させようとした。1905/10/27に伊藤博文を特使として派遣し、保護条約締結を強要する。軍隊や官吏の脅しで締結され、植民地化される。
「(1907/7/24)第三次日韓協約(丁未七条約)を締結したのである。この協約によって、日本は統監による内政指導権を完全に掌握し、法令制定や行政施行、官吏任免などは統監の同意を必要とするようになった。また、日本人を韓国官吏とすることが決められ、日本人顧問は正式な韓国官吏となった。そして、秘密の覚書が取り交わされ、内閣各部に日本人次官を配置し、新設の大審院長·検事総長には日本人を採用し、控訴院や地方裁判所などでも日本人の判事·検事が大量に採用されることになった。さらに、皇宮守備の一大隊を除いて韓国軍を解散することが決められた。もはや朝鮮は、完全に主権を喪失し、国家の体をなさなくなった。(P208)」
これに対して民衆は国権回復運動、愛国啓蒙運動などを開始。大韓ナショナリズムが生まれ、支持される。1907年には義兵運動が起こり、各地で日本軍相手に戦闘する。結局、三光作戦・ローラー作戦などの徹底した弾圧と戦闘で死者1万8千人弱を出すが、その後もパルチザン闘争が続けられる。
(なるほど、朝鮮では民衆による反政府・反宗主国の抵抗運動に長い歴史と経験があったのだ。列島では突発的にしか起こらないのと対照的だ。のちの日中戦争で日本軍は三光作戦を行うが、これはその時の発案だったのではなく、日露戦争直後に朝鮮で行ってきたことの延長・焼き直しだった。)
第9章 韓国併合 ・・・ 1910年韓日併合。その前の1909/10/26に伊藤博文が暗殺される。狙撃者は軍人なので交戦行為と主張した。
(大韓ナショナリズムの勃興をみて、伊藤博文は絶望して、統監を辞職する。彼を暗殺した安重根はこれらの民衆運動の出だった。伊藤博文暗殺までにこの男が何をしてきたかを知らないといけない。)
明治維新以降の日本はまことに恥多き歴史。国民の目に触れないところで他民族に対して傍若無人の暴力的なふるまいを行っていた。本書では朝鮮半島のことしか触れないが、北海道の「開拓」と称するアイヌからの収奪や同じく沖縄諸島での収奪も同じ。日清戦争後に領土になった台湾でもそうだった。この事実は歴史教科書に書かれず、マスコミも取り上げないので、まったくもっと「日本人の知らない歴史」になっている。
併合以後は同じ著者の「植民地朝鮮と日本(岩波新書)」を参照。
朝鮮半島は日本の植民地として、日本の資本主義化に追いつけない人や競争の脱落者(すなわちモッブ@アーレント)を引き付けた。併合前から日本人だけを官吏とし、幾多の企業が起業した。そこでは人員が不足していたので、共同体になじめないモッブたちの居場所になったのだ。それを本土の側から書いたのが夏目漱石。作家当人が満鉄総裁の学友なので満韓に招待され植民地の人を差別するようになったし(「満韓ところどころ」)、後期の小説には日本で暮らせないので朝鮮にわたる独身男性キャラが登場する(「明暗」)。これは漱石研究者や日本文学史にはまず書かれないことだ(と思う)が、同時代の記録と照らし合わせることで見えてくる。ほかにも新見南吉や夢野久作の朝鮮・満州を舞台にした小説からも日本の植民地行政とモッブの横行がわかる。
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日本の敗戦後の朝鮮の歴史は以下を参照。北朝鮮の歴史はまだ勉強していない。
2017/05/19 文京洙「韓国現代史」(岩波新書) 2005年
2022/05/25 池明観「韓国 民主化への道」(岩波新書) 1995年